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安全の行方 ー巨大鉄道会社の半年

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 尼崎JR脱線事故の犠牲者を悼む慰霊施設の募金をめぐり、JR西日本にさざなみが立った。

 「社員の九割から募金が寄せられ、約一億三千四百万円が集まりました」。九月二十八日、担当者が胸を張って発表した。平均すれば一人当たりが出した善意は約四千七百円になる。鉄道本部の部長五人と四つある労働組合の委員長が呼びかけた任意の募金。会社一丸となった事故のおわびと誠意の証しだった。

 ところが、実情は違った。管理職が躍起になって募金を集め、一線の社員の間には「募金しなければ今後の処遇に影響しかねない」という空気が広がった。

 「強制やない。お願いや」と迫る管理職。ある支社では、上司から携帯電話に休日でも二度、三度とかかってきた。

 国鉄労働組合(国労)西日本本部の定期大会で、不満の声が上がった。「上司はカンパ(募金)していない人を把握しているようだ。カンパによる差別をさせないでほしい」。まくしたてるように組合員が訴えた。

 JR西は脱線事故後、企業風土の改革に取り組み、部下が上司に物を言いやすい「風通しのいい企業」づくりを目指してきた。募金発起人の一人、国労西日本の上村隆志委員長は「強制的な職場があった。JR西が、いまだに上意下達の体質から抜け出せていない証拠」と顔をしかめた。

 JR西は、社長を先頭に全役員が現場に出向き、一線の社員と話し合う緊急安全ミーティングを開いた。六-八月の三カ月間で開催は九百四十八回を数え、参加した社員は延べ一万六千八百九十三人に上った。

 「社員から一万件の意見が上がった。これをできるだけ、今後の施策に反映させていきたい」

 九月の定例会見で、物静かな垣内剛社長がミーティングの成果を誇るように言葉に力を込めた。

 しかし、社長の手応えと現場社員の声は重ならない。国労が実施した組合員アンケートが、変わらぬ体質を物語る。

 「安全ミーティングの内容は理解できたか」の問いに、約四百人の回答者のうち53%が「理解できない」。別の設問でも51%が「形式的で熱意が伝わらない」と答え、評価する意見は一割にも満たなかった。「助役や係長に自由に物が言える状態ではない。本社のえらいさんが来ても本音は言えない」と厳しい意見も目立った。

 安全担当の山崎正夫副社長がうめいた。「社員の意識などソフト面の改革は難しい。向上したかどうかをしっかり検証しないと」

 社員三万二千人の巨大組織。染みついた体質は簡単に変わらない。

 四月二十五日、JR宝塚線(福知山線)で快速電車が脱線した。死者百七人、負傷者五百五十五人の大惨事からまもなく半年。JR西日本が打ち出した安全対策と改革はどこまで進んだのか。

2005/10/20
 

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