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兵庫人 第17部 医の先導者たち

(1-1)ゴッドハンド 命をつなぐ奇跡の指
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画像を凝視しながらカテーテル治療をする坂井信幸医師(左)=神戸市中央区、中央市民病院(撮影・山口 登)
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画像を凝視しながらカテーテル治療をする坂井信幸医師(左)=神戸市中央区、中央市民病院(撮影・山口 登)

画像を凝視しながらカテーテル治療をする坂井信幸医師(左)=神戸市中央区、中央市民病院(撮影・山口 登)

画像を凝視しながらカテーテル治療をする坂井信幸医師(左)=神戸市中央区、中央市民病院(撮影・山口 登)

■開頭せず動脈瘤治療

 手術台に横たわる患者。ふとももの付け根辺りから動脈に差し込んだカテーテルを、モニターのエックス線画像を見ながら、胴から首、そして頭部へと入れていく。直径わずか一ミリほど。先端には金属製コイルが仕込まれている。全神経を集中させた指先で巧みに操り、たどり着いた脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)にそのコイルを詰める。

 「コイル塞栓術(そくせんじゅつ)」。脳動脈瘤に血液が流れないようにすることで、くも膜下出血を引き起こす破裂を防ぐ。脳神経外科医坂井信幸(52)が得意とする脳血管内治療の一つだ。

 七年前から、神戸市立医療センター中央市民病院に勤務。現在、脳神経外科・脳卒中センター部長を務める。脳血管内治療の症例数は国内トップの四千三百五十件以上。曲がった細い血管へもカテーテルを確実に誘導する。「ゴッドハンド(神の手)」と称せられる世界でも卓越した坂井の技術を頼り、全国各地から訪れる患者のため、一週間に十件前後の手術を行う。

 「手術中は五感を働かせて感じ、考え、工夫する。常により早く、よりよく。技術は精進の結果」と胸を張る。「患者や家族に喜んでもらうため」。この一点が坂井を後押しする。

 関西医科大で学び、脳神経外科医になった坂井に転機が訪れたのは一九九一年。米カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)への留学だった。指導教官のF・ビニュエラ教授が自ら開発したコイル塞栓術の臨床試験に立ち会う。

 当時、脳動脈瘤の治療といえば、頭蓋骨(ずがいこつ)を開いてクリップで血流を止める手術が主流。「えらいことを考えよる」。開頭手術を伴わない画期的な手法に舌を巻き、「日本にも導入したい」と思った。

 京都府のほぼ中央、現南丹市で生まれ育つ。内科の開業医だった父の影響を受け医師を志したものの受験に失敗。浪人生活に入るが、「知人に頼み込まれ」、なぜか阪神タイガースの私設応援団員に。勉強そっちのけで甲子園へ通い詰めた。「優勝には縁遠かったけど、仲間と騒ぐのが楽しかった」

 頼まれると断れない性格は今も変わらない。週一回の外来では、昼食時間も惜しんで診察を続ける。「若手の育成に役立てば」と、手術室に隣接する操作室や医局でも同時にエックス線画像などが見られるモニターを設置した。「手術はチーム戦だから」。一方で「手術でできることは限られている」とも話す。

 今春、新たな試みに挑んだ。神戸市と明石など四市を対象に、くも膜下出血など脳卒中の治療に当たる病院が連携する協議会を設立。患者情報を医療機関が共有し、発症直後から入院、リハビリ、通院と一貫した治療を目指す。

 「脳卒中になっても困らないまちに。地域で患者を支えるモデルにしたい」(敬称略)

2008/8/3
 

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