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兵庫人 第18部 「学びの道」求めて

(1-1)公立教育 「百ます計算」に触発 
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「教員採用試験のピアノ実技は、紙の鍵盤で練習した」と振り返る陰山英男さん=京都市北区、立命館小学校(撮影・幾野慶子)
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「教員採用試験のピアノ実技は、紙の鍵盤で練習した」と振り返る陰山英男さん=京都市北区、立命館小学校(撮影・幾野慶子)

「教員採用試験のピアノ実技は、紙の鍵盤で練習した」と振り返る陰山英男さん=京都市北区、立命館小学校(撮影・幾野慶子)

「教員採用試験のピアノ実技は、紙の鍵盤で練習した」と振り返る陰山英男さん=京都市北区、立命館小学校(撮影・幾野慶子)

■反復で脳の力育てる

 エンジン音が高まり、飛行機は滑走路を疾走し始めた。一九八四年、インドの旧カルカッタ空港。手軽な反復学習法「百ます計算」を全国に広め、現在、立命館小学校の副校長を務める陰山英男(50)が教員四年目、二十六歳の夏だった。インド各地を三週間放浪した帰途のこと。離陸直前、滑走路沿いの大きな英文看板が目に飛び込んできた。

 Development cannot be imported(進歩は輸入されない)。この一文が、陰山の人生を変えた。

 兵庫県朝来市和田山町生まれ。岡山大法学部時代、アナウンサーを目指したが夢はかなわず、親の勧めで教員になった。初任地は尼崎の市立小学校。学級の三分の一が私立中学受験を目指していたが、その学力には疑問を感じた。

 「難問は解けるのに、簡単な計算でつまずく」

 三年後、中学受験する児童がほとんどいない故郷の但馬を希望して異動した。旧日高町立小学校。今度は授業中の緊張感がなさ過ぎた。都会も田舎も自分に合っていないように思え、袋小路に陥った。

 インド行きは、その年の夏休み。校長には「研修」と説明したが、ボーナスで行ける最も遠い地として選び、Tシャツにジーパン姿で当てもなくさまよった。じきに悩みなどどうでもよくなり、帰る時は抜け殻のようになっていた。空港で見た看板の英文は、そんな陰山を一撃した。

 「自前で国を成長させる‐というインド人の意気込みに、活を入れられた」

 帰国後、授業研究に熱を入れ始めた。教育書を大量に買い込み、あれこれ試した。その二年半後、ある講演会で「生涯の師」と仰ぐ岸本裕史(ひろし)(一九三〇~二〇〇六年)と出会う。当時、岸本は神戸市立小学校の教諭。縦横十個のますを作り、基本的な計算をさせる教材「百ます計算」の考案者だ。「簡単なことを繰り返せばいい。それもできず、なぜ難しい問題ができるのか」。岸本の口癖だった。

 「理念や理想で固まった教育界で岸本先生は異色の存在だった。公立も私立もない。要は子どもの力を伸ばすのにどれだけ忠実であれるかだ」

 陰山は、百ます計算を授業に取り入れた。繰り返し計算させ、そのたびに解答の時間を計った。児童も陰山も日々、計算力の高まりを実感した。

 陰山は旧朝来町立山口小に異動後も、百ます計算を核に反復学習に力を入れ、「早寝早起き朝ご飯」という生活習慣とのかかわりも重視した独自の教育法を築いた。山間部の児童は基礎学力を飛躍的に伸ばした。「解けた、解けた!」。喜々とする児童の姿に陰山は、みずみずしい「学びの力」を感じ取った。

 「学力とは脳の力。それは勉強だけでなく、すべての土台となる」(敬称略)

2008/9/7
 

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