新兵庫人 第24部 命の恵み
東京・銀座に「神戸」を求めて、客が集まる。
顔ぶれも多彩だ。国内の政経済界はもとより、中東の王族やアフリカ政界の大物…と世界に広がる。グラミー賞に輝いた歌手もいる。
世界の要人・著名人たちをうならせる、そのお目当ては「神戸ビーフ」である。
日本の社交の中心地・銀座で、神戸ビーフを提供する一店が、神戸市西区伊川谷町に本店を構える「ビフテキのカワムラ」だ。兵庫県内では神戸、西宮、加古川、姫路に6店舗、県外に初めて出したのが、銀座だった。
オーナーシェフの川村春二(62)が語る東京進出の意図はこうだ。「国内最高級のまちから、最高の肉を世界に発信したい。神戸ビーフならできるし、自信がある」
川村が絶対の信頼を寄せる「神戸ビーフ」だが、名乗るのは、容易なことではない。
神戸肉流通推進協議会(事務局・JA全農兵庫)は、認定のための厳しい基準を設けている。先祖代々、兵庫県内で生まれ育った黒毛和牛の但馬牛の肉であること。霜降りの度合いは細かくランク分けされる。体重制限もある。結局、認められるのは年間約3千頭で、兵庫県内の但馬牛の約5~6割という。ちなみに国内の和牛全体でみると、0・6%にすぎない。
神戸ビーフの味覚について川村自身はこう評する。
「霜降りの脂は口の中ですっと溶け、ほのかな甘みが広がる。しかし、後味に脂っぽさが残らない」
川村は広島県の出身。高校卒業後、有馬温泉(神戸市北区)での料理修業を経て、24歳で独立。姉のいた三木市に鉄板焼きの店を開いたのが、肉との本格的な関わりとなった。
バブル経済下、川村も当時の例外ではなく、店舗を豪華に見せようと、内外装などに多額の投資をした。しかし、「思ったよりも客は来ず、借金だけが残った」。さらに2001年、牛海綿状脳症(BSE)が問題になると、客足はぱったりと途絶えた。
二つのピンチに直面し「本物の味を提供する大切さを痛感した」と言う。神戸ビーフに傾倒するきっかけとなった。
川村はさらに「一番」にこだわった。昨年は、えりすぐりが集まる品評会の最優秀賞受賞牛を13頭買い付けた。同協議会によると、これほど買う業者は珍しいという。
「農家の努力が詰まった傑作でもある神戸ビーフは、但馬牛も含め、兵庫県の誇りでもある。ナンバーワンを世界に提供し続けたい」。兵庫を軸足に、川村の世界へのアピールは続く。(敬称略)
(経済部・井垣和子)
2011/3/6