約2万平方メートルの敷地に積まれた木の切れ端や丸太が、大型機械で次々と細かく砕かれていく。
赤穂市にある「日本海水」の工場。木材チップは、今春稼働した木質バイオマス発電所の燃料に変わる。年間20万トンを燃やし、最大発電出力は1万6530キロワット。一般家庭の消費電力4万世帯分を賄える。
この発電所が今、宍粟(しそう)の林業を根底から揺さぶっている。
「材価が落ち続ける中で、これよりは下がらんっちゅう『底』が見えた安心感は大きいでね」
山崎木材市場(宍粟市山崎町)専務取締役の東里司さん(59)の言葉に、林業関係者が木質バイオマス発電(バイオ)に寄せる期待が集約されている。
燃料には主に、不良木やタンコロ(根元)など建材には不向きな木を使い、県森林組合連合会が中心となって収集。宍粟からは年間3万~5万トンを調達する計画だ。
その際、1トン6700円という一定の価格で買い取る。「本来なら山にほかしよったもんを出しとるで。トータルの生産量は上がる」と林業家の清瀬八郎さん(68)=山崎町。
林業と発電を結びつけるこのサイクル。県や同連合会など官民協働で進められ、「兵庫モデル」と呼ばれる。
バイオの取り組みは東日本大震災後、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が設けられたことで、全国に広がった。宍粟でも昨年、木材をバイオに安定供給するための協議会が立ち上がった。
今後さらに、朝来市と丹波市でも発電所が稼働する予定だ。東さんは「木の需要が増えるのは間違いない。山がにぎやかになる」と光明を見る。
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間伐されずに森林が荒れると、土が痩せ、山の治水機能も落ちる。近年急増しているゲリラ豪雨などで、その影響は如実に出てしまう。
日本海水が意識したのは、まさにそこだ。「安定した木の販売先があれば林業の支援、ひいては環境への貢献になる」と同社電力事業部担当課長の高橋一典さん(42)。
同社の本業は製塩。宍粟の森から南へたどった赤穂の海辺で、名物の塩ができる。「海と山は切っても切れない縁がある」と地元漁業者が言うように、古来より養分の豊富な水を海に届けてくれた山に、恩返しをしたいのだという。
豊かな自然循環から生み出される、新たなエネルギー。バイオは林業の可能性の扉を大きく開いたように見える。
林業家からは慎重な声も聞いた。建材に使えるはずの木まで発電用に回されないか。持続可能なシステムなのか-。
「燃やすために何十年も育てたんやないんやけどなあ」。そんな嘆きをのみ込みながら、バイオのうねりが加速度を増していく。
(黒川裕生)
2015/8/3