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いのちを学ぶ

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「おかえり」。ほほ笑み合って帰路に就く2歳の子と母(45)=宝塚市内(撮影・中西幸大)
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「おかえり」。ほほ笑み合って帰路に就く2歳の子と母(45)=宝塚市内(撮影・中西幸大)
成長が母(36)の喜び。小学生になった息子からもらったメッセージ=兵庫県内(撮影・吉田敦史)
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成長が母(36)の喜び。小学生になった息子からもらったメッセージ=兵庫県内(撮影・吉田敦史)

 新型コロナウイルスの感染拡大で出生数や婚姻数が激減する一方、予期せぬ妊娠や生活苦に悩み、支援を必要とする妊婦が増え続ける。妊婦を孤立させず、小さな命を社会はどう守るのか。連載「いのちを学ぶ」は、性教育の現場、新しい家族の形、性の多様性など現代の「生」と「性」を見詰めたい。

 「簡単に言うと、悪い男に引っかかった」。兵庫県在住の小嶋沙織さん(36)=仮名=は、優斗君(8)=同=を身ごもったときのことを思い返した。

 高校卒業後、専門学校の授業についていけずに退学。その後、アルバイトを重ね、キャバクラで働いていたときに年下の男性と出会った。「私は付き合っていると思っていたけど、相手はどうだったか…」

 第一印象は、優しくて、顔の整った人。だが、半年もすると理由もなく足蹴りされるようになり、罵倒された。怖くて、つらくて「当時をあまり覚えていない、記憶を消し去りたい」と表情を曇らせる。

 彼から逃げ出した数カ月後、体に異変を感じた。食べた物をもどし、生理がこない。妊娠だと気づいたが、「生まれてくる命に責任が持てない」。体調不良と自分に言い聞かせ、働いた。病院に行ったときは、もう堕(お)ろせない時期だった。

 8年も連絡を絶っていた実家は頼れず、貯金もない。時折、おなかの中で小さな命が動くのを感じた。

 友人に打ち明け、市役所に相談。少しずつだが、不安が和らいだ。おなかが大きくなり、歩くのも億劫(おっくう)になったころ、「この子の人生に関わりたい」という気持ちが芽生えた。

 いま、母子生活支援施設で暮らす。「今日も無事に一日過ごせ、ご飯も食べてくれた。たまに憎まれ口もたたくけど、『ママ大好き』って言ってくれる」。寝ついた息子の頭をよしよしとなでるのが、かけがえのない時間だ。

 今井綾香さん(45)=仮名=は、交際相手が望んでいなかった妊娠が発覚。中絶費用を渡されたが、「年齢的に最後かもしれない」と独りで産むことを決心した。

 インターネットで民間の支援施設を調べ、出産後は低価格の住居と保育、就労が確保できる環境を求めて兵庫県に引っ越してきた。

 長男は2歳になった。フルタイムで働き、保育園へ迎えに行く頃には日が暮れている。“イヤイヤ期”に入り、朝はつい怒鳴ることもある。それでも、「あ、ママ!」と駆け寄ってくる笑顔に癒やされる。

 2人は支援につながり、子どもと暮らすことができた。しかし、わが子と生きる未来を自ら絶った妊婦もいる。

 2019年11月、神戸市の女子大学生が羽田空港のトイレで出産した直後に女児を殺害し、公園に埋める事件が起きた。厚生労働省によると、生後0日で虐待死した赤ちゃんは、03~20年に165人にも上る。

 深刻化する母子の孤立。兵庫県は昨年11月、福祉や就労など約10の部局を横断させたプロジェクトチームを発足させた。「制度の隙間にいる妊婦にうまく支援が届いていない」と県社会福祉課の石川雅重さんが指摘する。

 県が参考にするのは、民間の相談窓口「小さないのちのドア」(神戸市北区)。開設から3年で3247人、延べ2万1729件の相談を受けた。「職を失って住む家がありません」「おなかに赤ちゃんがいるのに、上の子も私も毎日1食しか食べていません」-。日々、SOSが届く。

 コロナ禍以降は思いがけない妊娠に悩む10代の相談が増えているという。相談機関の代表理事でマナ助産院院長、永原郁子さんは「自分の人生設計が立てられるような性教育、生きる教育が必要です」と強く語る。(名倉あかり)

2022/1/1
 

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