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性教育について語る神戸大大学院医学研究科の岩田健太郎教授
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性教育について語る神戸大大学院医学研究科の岩田健太郎教授

 “感染症のプロ”として新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗り込み、感染対策の徹底を進言したことでも知られる神戸大大学院医学研究科の岩田健太郎教授(感染治療学)は、医学生時代から性教育に取り組んできた。“性教育元年”から今年で30年。今の日本の性教育をどのように見ているのか聞いた。(聞き手・高田康夫)

 -なぜ学生時代から性教育に取り組んできたのか。

 学生時代にエイズウイルス(HIV)感染症予防を啓発するサークルに入っていた。当時は感染したら死ぬという病気だった。教育が大事だと思って中学校や高校を訪問し、病気や性の話をしてきた。

 -現在の性教育についてどう考える?

 昔に比べると性教育に対する否定的な見解は減ってきているが、学校教育としては貧弱だと思う。一部の先生が一生懸命やっているが、あくまで個人ベース。システムとしてうまく組み込まれていない。日本の学校教育には「生き延びていくための教育」という観点があまりなく、将来、性で困らないために性教育をするということが目的なのに、それが必然であることが十分認識されていないように思う。

 一方で、ジェンダーや性的マイノリティー(少数者)について、こうあるべきという「べき論」を教えると、イデオロギー教育のようになってしまって危うい。自分の思いを子どもたちにぶつけて満足している人もいる。もともと生存のための性教育という必然性が放置されてはいけない。

 -性感染症予防の観点で始まった性教育元年から今年で30年。その成果は?

 一時期に比べると状況はよくなっている。バブル期前後と比べ、若者の性活動は穏やかになっている。梅毒のように増えている性感染症はあるが、望まない妊娠などは減りつつある。ただ、海外に比べると性教育は十分にされていない。

 -エイズの感染状況や性教育の効果などは。

 あまり性教育の効果はないと思う。日本の場合、HIV感染は男性同士の同性愛者に多い。学校教育で同性愛者について議論する時間はほとんど取られておらず、ましてやHIV予防というところまで落とし込めていないから難しい。僕らは1990年代に性教育でHIV感染を抑えることを目指したが、なかなかうまくいかなかった。

 ただ、HIVについては、現在は良い薬があって、薬を飲んでいると性行為をしても他者への感染が避けられる。だから教育というよりも、科学的に正しいことをやっていればそれでよい時代に来ているという考え方もある。

 -性感染症だけでなく、新型コロナのような感染症も中学校では教えることになっている。

 健康教育全般を教えることが大切。感染症を含め運動や食事、予防接種といった健康、そしてお金の管理などをトータルに教えた方がよい。その中の一つが性教育で、ことさらに特別視するのはよくないと思っている。性行為は怖いと危機感をあおるだけでは、本質的なところを見失う。人を愛すること、性的なつながりを持つことの大切さ、特に他者を尊重するという人権教育につなげることが大事だ。

 -現在の若者が性に積極的ではないのは、性教育で怖い部分ばかり教えられているから?

 性に限らず、現在の社会は分断されている。多様性を認める社会と言われているが、自分と価値観が合う人だけと付き合う社会になりつつあると思う。本当の多様性というのは、性だけでなく、職業でも何でも、自分と違う人と人間関係を結ぶこと。自分にない価値観や理解できないものも含めて受け入れることができて、初めて多様性を認める社会になる。

 若い人の性的活動がトーンダウンしている。性行為の話だけでなく、異性という自分にないものと関わり合うことが面倒くさい、しんどい、という感じになり、一つの問題だと思う。

 -コロナ対策と性感染症の対策に共通することは。

 感染症のことだけ、ウイルスのことばかり考えているとコロナ対策はできない。教育や経済、生活での楽しみや旅行など、いろいろなことを考えながら対策をする。エイズ対策をするときも、HIVばかり見ていても全く対策にはならない。セクシャルマイノリティーとはどういうものか、性行為とはどういうことか、人権や差別などトータルで勉強しなければ、HIVの診療はできない。

 感染症の伝播は微生物が半分、人間が半分の現象だ。人間とウイルスが一緒になって活動し、感染症という現象を引き起こす。ウイルスのことだけでなく、人間の勉強もたくさんしなければいけない。全体としての人間教育、他者や多様性を認める教育が、今の分断の時代には大切だ。

2021/1/4
 

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