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いのちを学ぶ

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1987年1月、異性間交渉で初のエイズ発病を報じる本紙
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1987年1月、異性間交渉で初のエイズ発病を報じる本紙

 パンデミック(世界的大流行)は新型コロナウイルスだけではない。エイズも40年を超えるパンデミックだ-。

 昨年12月1日の「世界エイズデー」。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、世界にそんなメッセージを発信した。

 日本中にエイズウイルス(HIV)の不安が渦巻いたのは1987年1月。同性間交渉でしか感染しないと思われていたのに、神戸の日本人女性が異性間の性交で初めて感染、発病したことが判明。保健所の電話は鳴りやまず、根拠のないデマや偏見が飛び交う。「神戸エイズパニック」と呼ばれるようになった。

 その後、エイズ予防を学ぶことの必要性から、文部科学省は学習指導要領に初めて性教育を位置付ける。その指導要領が実施された1992年が、日本の「性教育元年」とされる。

 2000年7月にHIV感染者を支援する非政府組織(NGO)「BASE KOBE(ベース・コウベ)」を立ち上げた繁内幸治さん(60)は、全国の学校や修学旅行先の宿泊施設を訪れてきた。感染者への偏見をなくし、性感染症予防の大切さを伝えるためだ。

 繁内さんには忘れられない思い出がある。

 京都の旅館。ある中学校の生徒と一緒にすき焼き鍋をつついた。「食事ではうつらない」「おしゃべりではうつらない」。そんな実体験をしてもらう。心配する教諭をよそに、生徒らと大いに盛り上がった。生徒らは「全校生に聞かせたい」と教諭や保護者に掛け合い、学校にまで繁内さんらを招いてくれた。

 だが、問題が起きた。「あの人ゲイじゃないか」。教諭の一人がインターネットのゲイ関連の掲示板で繁内さんの名前を見つけた。繁内さんらは二度と、その学校に呼ばれなくなった。

 全国でも「行き過ぎた性教育」などと国会で取りざたされ、学校での性教育は下火になっていった。

 「性教育元年」から今年で30年がたつ。エイズ治療は進化し、たとえ感染、発症しても寿命を全うすることができる。薬を飲んでいれば性交で感染することもないという。

 増えている性感染症もある。異性間の性行為で感染することが多い梅毒は、2021年1月~12月5日の感染者報告数が7134人と、集計が始まって以来過去最多だった。

 「感染症の半分は人間が起こす。ウイルスのことばかりでなく、教育や経済など、いろいろなことを考えなければコロナ対策はできない。エイズも同じ。性的マイノリティー(少数派)やセックス、人権、差別などトータルで勉強する必要がある」。感染治療の専門家、神戸大大学院医学研究科の岩田健太郎教授はそう訴え、さらに続ける。

 「危機感をあおるだけでなく、人を愛することや性的なつながりを持つことの大切さを伝える。自分の価値観とは違う他者を尊重し、受け入れる。日本では性教育を、そんな人権教育にまで落とし込めていない」

 多様性が叫ばれながらも、分断が進む。ウイルスはいつの時代も社会の弱点を突く。(高田康夫)

2022/1/4
 

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