いのちを学ぶ
パーカー姿の女性がユーチューブの画面に登場した。「皆さん、こんにちは、助産師のシオリーヌです」。ショートヘアを揺らし、大きな手ぶりで軽やかに語り出す。
「アダルトビデオはあくまでもフィクションです。嫌がっている女性に、強引に迫るような行為は過激なんじゃない?」
神奈川県出身の性教育ユーチューバー・シオリーヌこと、助産師、思春期保健相談士の大貫詩織さん(30)。この3年で約300本を投稿し、チャンネル登録者は16万人を超える。「性の話をもっと気軽にオープンに」をキャッチフレーズに若者向けに発信する。
産婦人科病棟で勤務していたころ、母親たちからこんな言葉をよく聞いた。
「計画していなかったけど、『できた』から産むことにしました」
「避妊のことを詳しく人に聞いたのは初めて」
不十分な性教育は、学校現場でも感じた。
ある中学校での講演前、教員にコンドームの写真が載った資料を見せた。すると教員は「写真はちょっとNGで」と。理由は「学校が性行為を推奨しているようになってしまう」から。
「具体的な知識が一番大事なのに」。大貫さんに歯がゆさが残った。
「子どもが知りたい情報を得られる環境が必要」と思い、2019年2月、若者や子育て世代に向けて、性教育に特化した動画チャンネルを開設した。
配信を始めると、嫌な予想が当たった。DM(ダイレクトメール)に何度も男性器の画像が送られ、「性行為の実技指導をしろ」といったコメントもあった。女性が、顔を出して、性の話をしている。それだけで「性欲をぶつけてもいい人」と捉えられた。「性はタブーなもの」という価値観が根深く残る。
その一方で、教員向けの研修依頼は増えている。
性教育とは、性行為や体の仕組みだけではない。ジェンダー平等、性の多様性、コミュニケーション能力など、性にまつわる包括的な学びだ。「根底にあるのは人権教育。女なら、男ならと縛られず、自分の人生は自分で決める権利があると知ってほしい」
西宮市の思春期保健相談士、徳永桂子さん(63)も、性教育を届ける活動を続ける。年間300回以上、全国の学校などで講演。よく、この仕事に就いた理由を問われる。中高生には「実は中学生のとき、性被害に遭ったんだ」と明かす。
当時、母親から「あなたにも落ち度があった。早く忘れなさい」と言われ、自分を責めた。「性や体の知識があれば、おかしいと気付き加害者から逃げられたんじゃないか」
40歳になる頃、子どもへの暴力防止を啓発するプログラムや海外の性教育の講座に参加し、カウンセリングを受けて自身の心の傷が少しずつ回復。日本の古い男性観や女性観、性被害に遭った人も悪いといった母親の思い込みをつくった社会に「怒り」が向いた。
性教育を語る相手は一人一人だが、社会を変えていく行動だと徳永さんは信じている。(名倉あかり)
=神戸新聞NEXTに徳永桂子さんの講演録=
2022/1/8