きょうからできる認知症対策
認知症の対策などを神戸大教授らに聞くこのシリーズ。前回は脳の部位と機能との関係などを紹介しました。では、家族らの生活に支障が出てきた場合、どのような支援が必要でしょうか。前回に続き、神戸大大学院保健学研究科の種村留美教授(59)に、主な注意点を聞きました。(聞き手・新開真理)
■残された機能を使える環境に
-物忘れが増えるなどの変化を感じたら、周囲はどう対応すればいいですか。
「できるだけ早く環境を変える必要があります。例えば日時や昼か夜かが分かりづらくなれば、年月日と24時間表記の時刻が一緒に表示されるデジタル時計を置く。約束を忘れがちになったら電話とファクスを併用する。使い方を間違えやすい一体型の家電は避け、温める機能だけの電子レンジと、パンを入れたまま忘れてしまわないよう、焼き上がると飛び出すトースターに替える。ボタン一つで炊ける炊飯器を選ぶなど、生活をシンプルにすることを勧めます」
-食事や運動についてはどうでしょう。
「症状が進まないよう、血流を良くして認知症の原因物質であるベータアミロイドを増やさない食事を心掛けてください。服薬や運動も大事。散歩コースを変える、習い事を始める、話したことのない人と話すなど新しいことに挑戦して快い刺激を増やしましょう」
-認知症の進行を遅らせるため、必要な支えとは。
「できるだけ住み慣れた地域、自宅での暮らしを勧めます。そして、できる範囲で洗濯や掃除、料理を続け、残された能力を保ってほしい。周囲も『火は危ないから料理は一切だめ』と制限するのではなく、元気なうちから一緒に過ごし、本人ができることややりたいことを見つけ、練習しておいてください。ガスをIHに替えて調理をするなど残された機能を積極的に使うことは、症状の進行を抑えることにもつながります。一方、決まった曜日のごみ出しや分別は難しくなるので、支援が必要です」
-自立した生活を助ける機器はありますか。
「服薬や入浴、散歩、食事がおっくうな人に音声と文字で行動を促す『あらた』というタブレットアプリを企業と共同で開発し、有効性も確認されました。お孫さんの声で登録もでき、インサイト社の公式サイトからダウンロードできます」
「動きを感知すると『〇〇さん、どこに行くの? お部屋に戻りましょう』という音声が出て、外出を止めるセンサーも私たちの研究チームで作りました。また、リモコン操作が難しい人のために電源、音量、チャンネルのボタンだけを表に出し、それ以外は覆ったところ混乱が減りました。テレビとエアコン、照明に使える一体型リモコンも開発し、特許申請中です」
-リハビリテーションも認知症の進行を抑える効果がありますか。
「患者の半生や趣味を聞き、その人らしさに配慮して進めれば有効です。病院では、作業療法士や言語聴覚士、医師、看護師、社会福祉士らがチームを組み、目の前にある問題が脳の機能障害による症状なのか、心理的な混乱が原因なのかを見極め、残る機能をどう生かすかを考えます。訪問リハビリもあり、料理が難しくなった方なら、一緒に材料を確認して買い物を手伝い、調理までします」
「リハビリでは、家族の悩みの解決も図ります。トイレの場所が分からず困っている場合、扉に『便所』と大きく書いた紙を貼るなど、自宅で暮らしやすくする手伝いもします。用途に合った杖(つえ)や通常より高く立ち上がりやすい便座など、介護保険が使える福祉機器の情報も提供しているので、相談してみてください」
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