認知症について、神戸大教授らに聞くこのシリーズ。これまで認知症の特性や、食事、運動など予防的取り組みの重要性を紹介してきました。認知症高齢者の増加が予想される中、地域で暮らし続けられるよう支援する体制も整ってきています。認知症高齢者へのケアを研究する神戸大大学院保健学研究科のグライナー智恵子教授(53)に、具体的な支援の内容などについて聞きました。(聞き手・貝原加奈)
-認知症の人はどんなサービスを受けられますか。
「定期的な検査など医療面の支援や、訪問介護といった介護サービス、医療費控除を中心とする費用面の支援-と、いろいろあります。ほかに配食や見守りサービス、緊急一時保護事業、成年後見制度なども。ただ、認知症の進行具合や身体状況などによって利用できるものが変わり、市町独自のサービスもあるので、情報収集に努めてください。例えば、神戸市では、自己負担なしで認知症検診が受けられる制度や、事前登録をしていれば事故で損害賠償責任を負った場合に最高2億円を支給する救済制度などを設けています」
-誰に相談すればよいでしょうか。
「まずは近くの地域包括支援センターやかかりつけ医に相談してください。同センターでは、症状の進行に合わせた医療・介護サービスの標準的な流れ『認知症ケアパス』も教えてくれるので参考に。診療は、神経内科や精神科、心療内科、もの忘れ外来などのある医療機関を訪ねてください。専門的な診断や医療相談は県内19カ所の認知症疾患医療センターへ。かかりつけ医からつないでもらうのがよいでしょう」
-自分が認知症だと認められない人も多い。
「治る可能性がある場合や、きちんと対処すれば進行を緩やかにできる場合もあるので、早めの受診が大切です。ただ、本人が検診や病院に行きたがらない場合は『認知症予防の話があるよ』『体調が悪そうだから見てもらおうか』などと工夫して誘ってみてください」
-認知症向けの介護サービスを教えてください。
「要介護や要支援など介護の必要な度合いに応じて、ヘルパーの自宅派遣や住宅改修費の助成などが利用できます。認知症対応型デイサービスや施設への通い、宿泊、自宅訪問を組み合わせた小規模多機能型居宅介護などもあります。自宅を中心とする地域での生活が難しくなれば、グループホームや特別養護老人ホームに入所するなど、施設サービスの利用も可能です」
-症状が進んで誰かの支援がないと福祉サービスの利用が難しくなったら。
「判断力が十分でない人に代わって、成年後見人が法律行為をする制度を知っておいてください。判断能力があるうちに、将来に備えて信頼できる人を後見人として指定しておく任意後見制度もあります」
-当事者や家族間で支え合う場も増えてきました。
「悩みを語り合う当事者や家族の会は県内で100を超え、お茶を飲みながら気軽に集う認知症カフェは約500カ所あります。利用者からは『つらさを分かってもらえた』『不安が減り、穏やかに介護ができるようになった』との声も上がっています」
-地域で暮らし続けるためのポイントは。
「認知症の人を見守る『認知症サポーター』の数は全国で約1千万人に上ります。誰でもなり得る病気であり、偏見をなくす努力が必要です。地域に理解があれば、認知症になっても大丈夫だと思える。認知症の人にやさしいまちづくりが肝心です」
【ぐらいなー・ちえこ】1966年、岩手県生まれ。2007年3月、大阪大大学院医学系研究科博士後期課程修了。専門は老年看護学。高齢者ケアに関する国際比較研究や仮想現実(VR)を用いた認知症看護研修の開発に取り組む。14年より現職。神戸市在住。