認知症の対策について、神戸大教授らにそれぞれの専門分野から聞くこのシリーズ。認知症のリスクの一つとして、高齢者の孤立が挙げられます。今回は神戸大大学院人間発達環境学研究科の増本康平准教授(42)に、高齢者心理学の立場から、周囲とのつながりと認知症の関係などを聞きました。(聞き手・吹田 仲)
-孤立が認知症のリスクとなるのですか。
「そうです。孤立は認知症のリスクで、人との良い関係は認知症の発症を予防すると考えられています。人とのつながりが認知症の発症に影響する理由は大きく分けて三つあります」
-その三つとは。
「一つ目は抑うつは認知症のリスクを高めますが、良い人間関係はストレスを緩衝してくれるということです。悩みを相談できたり、頼れる人がそばにいたりすることでストレスは軽減されます。二つ目は、つながりがあることで、健康でいるための有益な情報を得やすいということです。一緒に運動し、不摂生を注意してくれることもあるでしょう。三つ目は人とのコミュニケーションは刺激が多く、認知の予備力を高めると考えられています」
-だからこそ人とのつながりが重要となる。
「夫婦や家族、友人、同僚など、人同士のつながりを意味する『社会的ネットワーク』は、認知症の予防に加え、高齢期の健康を考える上で重視されている要素の一つです。体が元気でも人や社会とのつながりがなければ引きこもりがちになり、健康的な状態とは言えません。社会的ネットワークや社会参加が、認知症予防に加え健康増進、幸福感の向上、死亡率低下につながることをさまざまな研究が報告しています。約30万人分を分析した研究では、喫煙や運動、アルコール摂取などより、人とのつながりに関する要因の方が、死亡率への影響が大きいという結果もあります=図参照」
-大学として取り組んでいることはありますか。
「神戸大大学院人間発達環境学研究科は2015年に、超高齢化社会が抱える問題の解決を目指す『アクティブエイジング研究センター』を立ち上げました。センターのプロジェクトの一つに、地域の社会的ネットワークの形成を目的とした『鶴甲いきいきまちづくりプロジェクト』があるのですが、私もメンバーとして活動しています」
-どんなものですか。
「大学近くにある神戸市灘区の鶴甲地区は、高齢化率が35%を超える典型的な都市部高齢地域です。活力ある高齢化を実現するため、地域住民や行政、企業と協力し、ここで健康教室や睡眠教室、園芸教室、防災訓練など、さまざまなイベントを継続的に実施しました。幅広い分野の専門家がいる大学の特徴を生かし、専門的な知見を踏まえ、住民が参加できることを意識したサロンを展開。現在までに延べ3500人が参加しました。取り組みの効果を検証したところ、参加した人は地域内に新たなつながりが作られたことが明らかになりました。さらに参加された方の地域活動への関心も高まっていました」
-つながりの効果とは。
「人とのつながりは、認知症の予防だけでなく、高齢社会の問題の解決においても重視されています。大きな災害が起きた際、地域につながりがあることで避難時にもお互いに声を掛け合い、助け合うことができます。また、不審な人に気付きやすく防犯にもつながり、認知症の徘徊(はいかい)見守りの基盤にもなります。良い人間関係を築くことは楽ではありません。しかし、特に高齢期ではつながりが大切になることを多くの研究が示しているのです」
=おわり=
【ますもと・こうへい】1977年、大阪府生まれ。2005年、大阪大大学院人間科学研究科博士課程修了。大阪大大学院助教などを経て、11年神戸大大学院准教授。専門は高齢者心理学や認知心理学など。大阪府豊中市在住。