仮設住宅の生活臭が、日ごとにうせている。三月末に迫った供用期限。恒久住宅への転居が進む中、空室が目立つ団地で住居を解体する重機の音がきしむ。棟が連なった巨大仮設も一棟、また一棟と姿を消し、更地がむき出しになっていく。「でも、私たちはまだ住んでいるんです」。移転先が決まらない住民からはそんな声が聞こえ、防犯、防災への不安が募る。
七日未明、神戸市西区の室谷第二仮設住宅から火が出た。炎はまたたく間に一棟十戸をなめた。焼け跡から女性(38)の遺体が見つかった。この棟に住んでいたのはこの女性だけ。向かいの棟も無人だった。「警報機がなっていたのに気付かなかった…」。発見者の男性(31)がうなだれた。
原因は失火と判明。台所付近がよく燃えていたという。コンロを使っていたのだろうか。「近所に人がいたら、被害は抑えられたかもしれない」。そんな思いは他の仮設にも伝わった。
西神第七仮設住宅。千戸を超すマンモス住宅も二月から部分的に解体が始まった。約百三十戸にまで減り、ほとんどが恒久住宅への入居を待つ。が、今なお数人の行き先が決まっていない。四十-五十歳代の単身男性たちだ。
「室谷の火事はショックだった」。この仮設を見守り続ける阪神高齢者・障害者支援ネットワーク副代表の黒田裕子さんは言う。深夜、同じボランティアとともに巡回を続ける。電灯がついていれば声をかける。「寒くないか、体の具合は」。痴ほう性の高齢者もいる。気が抜けない。実際、深夜の巡回でばったり出会い、家に連れ帰ったこともある。「あの時出会わなかったら、どうなっていたか」。仮設解消まで続けるつもりだ。
自治会長の野口守さん(70)も巡回を続ける。午前四時と午後七時。毎日二回、自転車で回る。「火を使う時間だからね」
加古川市の東加古川仮設住宅ではごみ置き場での不審火をきっかけに住民七人が夜警団を結成した。毎晩、拍子木の音が響く。西区の火災を知り、念入りに巡回するようになった。
西宮市の臨海部にある枝川仮設住宅では、放置された廃車が目立つ。沖代秀子さん(74)はまだ恒久住宅への切符を手にしていない。「足が不自由なので娘の近くに住みたい」と場所にこだわった。六回応募したが当たっていない。市があっせんする物件はどれも娘の家から遠い。「六月末までに決まればいいのだけど」
住人が去った部屋の戸には「市管理物件」という赤字の張り紙。七百七十八戸のうち六百五十三戸にある。張り紙が沖代さんに選択を迫る。(中部剛、青山真由美、沢田尚)
1999/3/17