阪神・淡路大震災から六年半。参院選、兵庫県知事選がスタートし、熱い戦いが繰り広げられている。震災後六度目の国政選挙、二度目の知事選となるが、年を経るごとに「復興」は候補者の訴えから消えつつある。被災者が抱える問題も、福祉や雇用など幅広い分野に拡散。「被災地の課題」としてひとくくりにできない現状に、市民側から、討論会や公開質問状で候補者に個別の政策を問いかける動きも出てきた。過去の選挙も振り返りながら、復興をめぐる争点を検証する。
市民から政策問う動き
被災地で活動するNPO(非営利組織)有志は、県知事選の告示前に候補者を一人ずつ招き、神戸市内で「復興政策を語る会」を開いた。「復興」をテーマに、被災地のNPOがこうした討論の場を設けたのは初めて。県政は被災者と直接かかわる課題が多いだけに、参加者からは具体的な質問が相次いだ。
鷲田豊明氏は「二重ローンを抱えた人や復興住宅の高齢者、中小企業の状況を見ると、復興には遠い」との認識。井戸敏三氏は「これまでは応急対策に追われたが、これからは真の『創造的復興』を果たす時期」。小室豊允氏は「ハード面では『八割復興』かもしれないが、被災者の暮らし、心の傷はまだまだ復興していない」とした。
鷲田氏は「被災者生活再建支援法の見直しや、二重ローンの一部返還免除」の必要性を挙げた。鳥取県が住宅再建に最高三百万円を補助する住宅再建支援制度を創設したことについても議論となり、井戸氏は「鳥取の取り組みは評価すべきだが、都市部では相互扶助の共済の仕組みが必要」、小室氏は「阪神・淡路のような大災害では三百万円では再建は無理。『兵庫発』の仕組みづくりを」と訴えた。
神戸東部新都心に県が建設する「阪神・淡路大震災メモリアルセンター(仮称)」は、参加者の関心が高かった問題。「県民の気持ちをもっと取り入れたものに」(鷲田氏)、「県の構想には被災者の視点がない」(小室氏)とする意見の一方、井戸氏は「県民との議論の機会を設けてきたし、建設後も運営上の工夫が可能」と強調した。
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自立支援金 評価は三様
被災者支援については、神戸市長田区の市民団体「『公的援助法』実現ネットワーク」が、知事選候補者に公開質問状を送った。
阪神・淡路大震災の被災者に最高百五十万円を支給する「自立支援金制度」の評価は、三人の候補で意見が分かれた。同制度の支給要件となっている所得制限について、鷲田氏は「設ける必要はない」、井戸氏は「国の被災者生活支援制度とも整合しており、現状ではやむを得ない」、小室氏は「所得制限は必要だが、(現在の設定は)低すぎる」と、三者三様。
同制度で被災者から不満の声が出ている「世帯主が被災していなければならない」とする要件に関しては、鷲田、小室氏が「必要ない」としたのに対し、井戸氏は「必要」との立場を示した。
「阪神・淡路大震災復興基金」による被災者支援策のうち、地場産業や中小企業対策については、鷲田、小室氏が「不十分」としたが、井戸氏は「中小企業者の活性化支援策などを行っており、一定の成果が得られた」などと答えた。
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「復興政策を語る会」参加者に聞く
【被災地NGO恊働センター・村井雅清代表】
震災後の大きなテーマである「市民主体の社会」を本気でつくる気があるか-が、最も聞きたい点だった。すべての復興政策には、県民の「参画と協働」が欠かせないからだ。特に「メモリアルセンター」の計画などは重要課題であり、意見を聞いておきたかった。
候補者の勉強不足、主張の矛盾、政治家の資質などが垣間見えた。選挙前だけでなく、日常的に県政の関係者を招いて議論する場を持つべきだ、と感じた。一般市民が自由に参加できる「語る会」のような場はまだ少なく、今後、こうした取り組みを根付かせたい。
【都市生活地域復興センター・池田啓一事務局長】
候補者の主張、人柄に直接触れることができたのは、大きな収穫。文章だけでは分からない「政策のイメージ」が伝わってきた。しかし、時間の短さもあり、復興に関する具体策はどの候補からも聞けなかった。実際、被災地では、復興の課題と社会全体の課題が分けにくくなっており、「復興政策」と大々的に掲げて語るのはかえっておかしいのかもしれない。
震災で急増した公営住宅や、福祉政策の議論が少なかった。参加者側にその分野の関係者があまりいなかったこともある。市民側も力をつけ、今後の選挙でも同様の議論の場を設けたい。
2001/7/17