阪神・淡路大震災から十年となる二〇〇五年に向け、自治体や民間団体が、復興の歩みを検証する作業を始めている。震災から五年の時点でも検証の動きは相次いだが、今回は不況などの要因が絡み合い、被災地の実情がより見えにくくなっている。いかに多くの市民の声を反映できるかも課題。十年の経験を、次世代にどうつなぐか-。手探りの議論が続く。(磯辺康子、宮沢之祐)
二〇〇五年は、兵庫県や神戸市が策定した「復興計画」の最終年。被災者自立支援金など、さまざまな施策の財源となっている「復興基金」も、十年を事業のめどとしており、制度面では大きな節目となる。
■変わる重要課題
神戸市は、四月から「復興の総括・検証」作業を始めた。中心になるのは、有識者らの「復興・活性化推進懇話会」(二十七人、座長=尭天義久神戸大名誉教授)。
市民が意見を出し合う「ワークショップ」の結果などをもとに、懇話会が秋までに中間報告を発表。最終的には懇話会の提言を受け、「十年以後」の施策に生かす。
ワークショップは六月から七月にかけ、市内各区で開かれ、「震災復興とは」「神戸の将来像」の二テーマで計二百五十四人の市民が参加した。七月末には各区の代表らが集まり、全市での意見を整理。投票で「重要項目」を決めた。
その結果、両テーマで上位に挙がったのは、「人と人、地域のつながり」「地域経済の強さ」。「防災意識の継承」は、触れる人が多かったものの、重要度では低位にとどまった。
震災五年の際のワークショップで、最重要課題に挙がったのは「住まい」だった。
懇話会メンバーの立木茂雄同志社大教授は「『住まい』に関する意見が激減したのが今回の特徴。『防災意識の継承』は長期的な問題として頭にあっても、目前の重要課題にはなっていないようだ」と分析する。
議論に参加した「和田岬校区防災福祉コミュニティ」役員、天神山広志さん(48)=同市兵庫区=は「区ごとの意識の違いを実感した。兵庫や長田区では、自分自身も含め、いろいろな支援制度が切れた震災五年以後のほうが苦しいという感覚がある」と話す。
「総括・検証」作業はこのほか、初の試みとして大学生らから「震災の教訓を踏まえた神戸の魅力づくり」について提言を募集。八月末までに、市民一万人アンケートもまとめ、懇話会の中間報告に反映させる。
◆
■実務的に
兵庫県は、被災住民や学識者らによる「復興十年委員会(仮称)」の設置を準備している。設置の時期やメンバーは決まっていないが、井戸敏三知事は「十年間の成果や課題を総括的に検証し、制度として全国に提言していきたい」としている。
震災五年の際、兵庫県は国内外の研究者が二十テーマに分かれて復興過程を検証する「震災対策国際総合検証事業」を展開したが、今回はより実務的な内容になる見込み。
復興企画課は「議論の進め方は未定だが、まず十年でできたこと、できなかったことを把握することが必要」という。
■予定なし
一方、大きな被害を受けた阪神間では、各市とも具体的な動きは出ていない。
二〇〇一年に記録誌「震災復興6年の総括」を発行した西宮市は「十年の節目にも冊子を作る予定だが、写真や図などデータを中心にまとめたい」と話す。芦屋市は震災五年の際、市民四千人のアンケートを実施し、施策に反映させたというが、十年の検証は未定。
伊丹、宝塚、川西市は「検証事業の予定はない」という。
2003/8/13