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(中)個人情報の壁 「弱者」守る近所付き合い
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 二〇〇四年は「災害の年」として記憶される。

 七月に新潟豪雨があり、台風が十個も上陸。多くのお年寄りが犠牲になった。兵庫県を襲った台風23号でも県内の死者二十六人のうち、六十五歳以上は半数を占めた。

 危機感を強めた政府は、災害時の避難に支援が必要な高齢者や障害者ら「要援護者」の対策に本格的に乗り出す。

 〇六年三月、避難支援の自治体向けガイドラインを改正。自治体の福祉部局が福祉目的で入手した高齢者、障害者の住所や障害の程度などの個人情報を、本人の同意なしでも防災部局や地域の自主防災組織(自主防)に提供し、共有するよう求めた。

 これを受けて、兵庫県も昨年七月、避難支援を検討する委員会を設置した。市町のモデルとなるマニュアル作成を目指すが、個人情報保護法(条例)などが「壁」となり、議論は進んでいない。

 兵庫県防災計画課の松原浩二課長は「個人情報が漏れたら、誰が責任をとるのか。情報を提供すれば地域は本当に要援護者の支援に動くのか。問題の大きさが浮き彫りになるばかり」とため息をついた。

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 東京都渋谷区は昨年十二月、政府のガイドラインに沿って、要援護者の個人情報を自主防や消防団など外部組織と共有することを決めた。

 政府はガイドラインで、災害に備えての個人情報利用は、「法が『明らかに本人の利益になる』場合は(目的外利用が)認められる」とした特例条項にあたる-との判断を示した。しかし、政府がいかに解釈しようとも、自治体の多くは、現場で直接住民と向き合うだけに及び腰だ。

 その中で、渋谷区は、区の個人情報保護条例が「(目的外利用は)ほかに定める条例があれば、その(禁止の)限りではない」との規定を使い、別の防災関連の条例を個人情報の外部提供ができるよう改正するという「苦肉の策」(同区防災課)で壁を克服した。要援護者の情報把握は一気に進むことになった。

 同区防災課の担当者は「人の命はプライバシー以上のものがある。漏えいを懸念する区民に提訴される恐れもあるが、走りながらやるしかない」と力を込めた。

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 要援護者のリストさえそろえば、対策は万全か。

 〇四年十月、台風23号で市街地が水没した豊岡市。中心部にある西花園区では、自主防のメンバーが、独居高齢者六十人の安否を素早く確認し避難させた。

 地区には、住民同士で作った独居高齢者のリストがあった。しかし、当時の区長、安井正典さん(70)は「加えて、日ごろの地域での付き合い、人間関係こそ一番大切」と強調する。助けられる人、助ける人が知り合い同士だったから、「スムーズな援助ができた」と振り返る。

 安井さんは、一九九八年に自主防を発足させてから、住民同士が顔を見れば声をかける「あいさつ運動」を進めた。地蔵盆、敬老会、大運動会、ハイキング、文化祭…。行事をとにかく多く開いた。

 都市部でも、そのような取り組みは可能だろうか。政府の要援護者避難支援を考える検討会の委員も務めた黒田裕子さん(神戸市西区)は「都市の地域も、米屋や郵便局なども巻き込んで、お互いを支え合う関係づくりに取り組むべきだ」と指摘する。

2007/1/14
 

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