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(上)協働 住民危機感、行政動かす
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 海岸沿いの平地に民家が軒を連ねる。兵庫県南あわじ市の福良地区。今世紀前半に起こる確率が高い南海地震で最大五・三メートルの津波が襲い、市街地の八割、約二千世帯が浸水するとされる。予測では、第一波の到達まで約一時間。震度6弱の揺れで家屋が倒壊し、住民が閉じ込められる上、がれきが高台への狭い避難経路をふさぐ恐れもある。

 対策について、市は「行政による施設整備や救助は費用的、時間的に限界がある」とした上で、「自治会ごとに自主防災組織(自主防)をつくり、助け合ってほしい」との方針を掲げる。

 兵庫県によると、県内の自主防の組織率は全国で四番目の95・1%。同市は数字上100%だが、担当者は「自治会を自主防と呼んでいるだけ」と明かし、実態に乏しい。

 市は二〇〇五年度、自主防の役員や情報伝達手段を整えて結成を届け出るように、全自治会に呼びかけた。避難路を補強する際のセメントや手すりなど原材料の支給も始めた。が、福良地区からの届けは二十二自治会のうち一つだけだ。

 自治会長の一人は「住民の危機感が薄い上、半数以上は高齢者。実際の行動に移せる見通しが立たない」と話す。

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 本州最南端、和歌山県串本町の大水崎(おおみさき)地区。南あわじ市の福良地区と同様、六十五歳以上の占める高齢化率は高いが、七十代を含む住民が津波に備え、避難路を自らの手で造った。

 きっかけの一つは阪神・淡路大震災だった。区長の多屋義三さん(67)は、大学生だった長男が神戸市長田区で被災した。「全壊したアパートから命からがら逃げ出した」「生き埋めになった人の悲鳴が聞こえ、救出に加わった」。体験談に地震の怖さを思い知った。

 大水崎地区では、東海・東南海・南海地震による津波の第一波が九分後、六メートル超の最大波は半時間後に襲う。が、高台の避難場所への経路は一本しかなく、離れた住民はそこにたどり着くまで十五分以上かかる。新たな避難路の整備を町に求めたが、費用面などで進まない。「津波はあす来るかもしれない。自分らで何とかせなあかん」と考えた。

 二〇〇〇年、自主防を結成し七、八人で日曜日などに工事を始めた。材料は近くの駅で不要になった枕木。〇一年には、足がとられる湿地を横切る長さ約二十メートルの橋を完成させた。町が熱意に押されて〇二年、橋の先に新しい階段などを建設し避難場所まで最長約六分の近道が実現した。

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 串本町では、大水崎地区に刺激を受け、自主防が次々と誕生し、同様の活動が広がっている。

 同町で「災害文化」の調査を続ける国立民族学博物館の林勲男助教授は「住民が自ら避難路を整備したことで、『自分たちのものだ』という意識が高い。維持管理はもちろん、実際の避難時に効果を発揮するはず」とみる。「地域での取り組みを促すには、リーダーの育成と、集めた住民の力を発揮できる仕組みが必要。行政も平等主義にとらわれすぎず、努力している地域を重点支援すべきだ」と指摘する。

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 阪神・淡路大震災から丸十二年。記憶の風化、行政による対策の限界が指摘される中、災害の被害をいかに減らすか。減災へ地域の力が問われている。各地に現状を探った。(石崎勝伸、森 信弘)

2007/1/13

 

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