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(中)模索 楽しみ方「出前」で提案
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海に面した兵庫県立美術館(右)。左には国際健康開発センタービル、JICA兵庫国際センター、人と防災未来センターが並ぶ=神戸市中央区脇浜海岸通1(撮影・長嶺麻子)
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海に面した兵庫県立美術館(右)。左には国際健康開発センタービル、JICA兵庫国際センター、人と防災未来センターが並ぶ=神戸市中央区脇浜海岸通1(撮影・長嶺麻子)

海に面した兵庫県立美術館(右)。左には国際健康開発センタービル、JICA兵庫国際センター、人と防災未来センターが並ぶ=神戸市中央区脇浜海岸通1(撮影・長嶺麻子)

海に面した兵庫県立美術館(右)。左には国際健康開発センタービル、JICA兵庫国際センター、人と防災未来センターが並ぶ=神戸市中央区脇浜海岸通1(撮影・長嶺麻子)

 「兵庫再生スタート予算」。今後、十一年間の行革初年度となる二〇〇八年度の予算案を、井戸敏三知事はそう評した。兵庫県立美術館(県美)の関連分は、前年度比七千五百万円減の約九億千八百万円。大規模な企画展があった三年前と比べると、四億円近いマイナスとなった。

 優先順位をどう付けるか。国内外の有名な美術作品を目玉に掲げ、集客や収益が見込める企画。時に赤字を覚悟しても、地域に根差し、個性を打ち出す展覧会。「どちらがなくなっても公立美術館の使命を果たせない」と悩むスタッフ。PRの重要性も感じている。「だが、うちに広報一筋のプロはいない。すべてが手探りだ」

 約三百億円(用地代を含む)を投じて建てられた県美は、光熱費など施設を維持する費用だけで年間約五億五千万円(本年度当初予算)掛かる。その“成果”について、多くの人の目は分かりやすい数字に向きがちだ。例えば入館者数。百万人を超えた開館初年度に比べ、〇七年度は六十万人にまで落ちた。本年度の予想はそれを下回る五十五万人にとどまる。

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 しかし、県美では「目の前の数字に追われ」つつ、それだけでは測れない面に少しでも光を当てたい-と考える。昨年、各分野の専門家を内部委員に指名し、事業評価を受ける試みに着手した。

 来館者の要望に応えるとともに「提案」もしていきたい。そんな思いも込めて、本年度から学芸員が地元の市立小学校に出掛け、企画展の見どころなどを紹介する「出前授業」を始めた。夏休みには、特典付きのスタンプカードを近くの市立小中学校に配布。来年度以降は但馬や淡路地域にも、と意欲を見せる。

 「美術館は『気づきを授受する場』であってほしい。展示はコミュニケーション。伝われば、世の中の見方が少し変わる」。人々が大切に思う物を両手に持ってもらい、それを撮影して展示するプロジェクトを県美などで続け、震災の被災者とも接してきた美術家のしばたゆりさんは、そんな言葉でエールを送る。

 「教育は、将来の顧客を開拓するための〝投資〟でもある。作品の展示と並ぶ重要な機能であり、システムとして確立する必要がある。学芸員の熱意に頼るだけでは長続きしない」。自治体の文化政策に詳しい中川幾郎・帝塚山大教授は、そう助言する。

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 県美が建つHAT神戸には、資料や証言で震災の様子を伝える「人と防災未来センター」など防災関連の機関が集中する。だが、周辺施設との連携は緒に就いたばかりだ。昨年一月には、一帯を会場に開かれたイベント「防災EXPO」に参加。震災体験者の話を若い作家らが作品に仕立て、発表した。

 デパートなどで、最上階に集客力のあるテナントを入れ、下の階に人を回遊させることを「シャワー効果」と呼ぶ。「これは文化施設にも共通する現象。周辺の機関と連携し、『面』での集客力アップを目指すべき」と中川教授は指摘する。スタンプラリーや観光ルートの開拓など、さまざまな可能性があるという。県美も、期間限定だが、三宮にある神戸市立博物館の半券持参者への割引など、試みはしてきた。

 一方、館の周辺には震災で家を失った人々が暮らす災害復興公営住宅約三十棟が立ち並ぶが、交流は盛んとは言えない。「地域とのつながりをさらに深め、同時に県内全域にターゲットを広げたい。兵庫県は広い。潜在的な入場者はまだまだいるはずだ」とスタッフら。新たな顧客の獲得へ。次の一手に知恵を絞る。(新開真理)

2009/1/17
 

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