兵庫県多可町の農家で、約７０年前の「播州白水菜」の種が発見された。希少な国内在来種で、存在すら知られていない幻の野菜。軒先のガラス瓶に入っていた種は専門の研究機関に持ち込まれ、青々と生育している。７０年の眠りを経て「タイムカプセル」から出てきた種が再び時を刻み始めた。（伊田雄馬）

　播州白水菜の種を保存していたのは、同町の農家竹本千代さん（７８）。娘夫婦とともに発酵したぬかや油かすなど植物性肥料で土を肥やす有機農法で栽培し、「チヨちゃんの野菜」として販売。古くからの伝統野菜を自家採種している。

　昨年６月、農業研究機関「農研機構」と農林水産省が県内で野菜の在来種を調査。農研機構の遺伝資源センター研究員、有賀裕剛さんらが「ひょうごの在来種保存会」のメンバーとともに、竹本さんが育てる伝統野菜「青水菜」や「播州こぶ菜」などを視察した。

　畑近くで歓談している際、竹本さんが思い出したように小さなガラス瓶を持ち出した。中身は約７０年前に取った播州白水菜の種。白水菜は竹本さん自身も子どもの頃に食べたきりで、有賀さんや在来種保存会のメンバーも「聞いたことがない」と驚いたという。

　昔の農家は、採取した種を瓶に入れて保存するのが習慣だったといい、竹本さんは白水菜の種を軒先に放置していたという。娘婿の岡野圭佑さん（６０）が数年前、竹本さんの頼みで栽培に挑戦したが、芽は出なかった。

　有賀さんは農研機構で無菌状態の培養液に約１１０粒をまいた。すると、半分程度が発芽し、１５日後には土に移植できるまでに成長。水菜らしい切れ目のある葉をつけた。有賀さんは「竹本さんが保存していなければ、播州白水菜は途絶えていた。一般的な水菜との違いを調べたい」と遺伝子分析を進める。

　育った株から採取した種の一部は、竹本さんの手に戻り、今年１０月に植え付ける計画。２カ月程度で収穫できる見込みで、竹本さんは「野菜で生活してきた者は種を大切にするさかい」と復活を喜ぶ。栽培の輪を近隣に広げたい考えで、ルールやブランドを守ってくれる農家を募集するという。