衆院選の争点の一つ、憲法改正。憲法違反との批判も浴びた安全保障関連法などを成立させた安倍晋三首相(自民党総裁)は、9条を改正して自衛隊の存在を明記し、「違憲論」を封じる方針を打ち出す。北朝鮮情勢が緊迫化する中、自衛隊の現場では有事に備え、根拠規定への期待が高まっている。一方で、隊員の家族からは「危険な任務が増えるのでは」と不安の声も上がる。
「わが国を取り巻く国際情勢は冷戦終結以降、最も厳しい情勢であると認識している」
今月8日、陸上自衛隊伊丹駐屯地(伊丹市)で開かれた中部方面隊の創設記念式典。整列した隊員約960人を前に、厳粛な面持ちであいさつに立った岸川公彦・中部方面総監は、北朝鮮によるミサイル発射や核実験に触れ「今日(の国際情勢)に即動することが極めて重要な役割だ」と語気を強めた。
総監の言葉には「これまでにない緊張感が込められていた」と同隊総監部の広報担当者。「内容が過激にならないように配慮した」とも明かし、自衛隊が抱えるジレンマをにじませた。そんな中、9条への自衛隊明記は「確実に隊員の士気を上げる」(兵庫県内の隊員)として、歓迎ムードが高まっているという。
一方で、9条改正への慎重論も根強い。
「自衛隊を明記すると、9条の重みが事実上なくなってしまう」と警鐘を鳴らすのは、神戸学院大の渡辺洋教授(憲法論)。「交戦権の否定や戦力の不保持などをうたった条項と自衛隊との関係があいまいになり、都合よく解釈されかねない」と危ぶむ。
海外派遣を経験した県内の隊員の妻は、駐屯地近くで取材に応じ「夫の仕事がきちんと認められるのはうれしい」としつつ、「期待に応えようと、さらに危険な任務が増えるのではと不安です」。複雑な思いを口にすると、手を引く小さな娘を見つめた。(小西隆久)