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取材に応じた特殊詐欺の受け子の女性が、キャッシュカードをだまし取るために訪れた住宅街=兵庫県内
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取材に応じた特殊詐欺の受け子の女性が、キャッシュカードをだまし取るために訪れた住宅街=兵庫県内

 「反社(はんしゃ)」-。芸能人の闇営業問題などを通じ、「反社会的勢力」の略語として広く知られるようになった言葉だ。その弊害や注意喚起が叫ばれ、新型コロナウイルスが社会を揺るがす中でも、反社が関わる犯罪は後を絶たない。背景には、反社に加わる若者の存在がある。なぜ彼らは裏社会に身を置くのか。過去の取材ノートから、特殊詐欺の「受け子」だったある若者の話を紹介する。

 2018年秋。詐欺罪の被告として法廷に立った山本美咲=仮名=の姿は、20代前半にしては幼く見えた。弁護士や検察官の質問に答える声は弱々しく、関西で活動する犯罪グループの一員とは、にわかに信じ難いほどだった。

 同年夏、美咲は兵庫県内の高齢女性宅を訪ねた。「キャッシュカードを受け取りに来ました」。銀行員を装い、暗記した文章をそらんじる。「疑われている」と感じたが、女性からはカードを渡された。

 同じ日に別の高齢男性宅も訪れ、同様の手口でカードをだまし取ったという。その後、男性の口座からは100万円が消えていた。

 一連の詐欺行為は、「ボス」と呼ぶ男からの指示だった。「受け子」の美咲のほかに、高齢者らに電話をかけて暗証番号などを聞き出す「かけ子」、口座から現金を引き出す「出し子」など複数の人間が関わったとみられるが、“末端”の美咲には知る由のないことだった。

 被害者と直接接触する「受け子」は、特殊詐欺で逮捕されるリスクが最も高く、多くは詐欺グループで“使い捨て”される立場にあるとされる。

 美咲はカードを受け取るまで内心、「失敗しないかな」と願っていた-と証言した。早く捕まり、それまでの生活を強制的にリセットしたかったのだろうか。

     ◆    ◆

 美咲に定まった住居はなく、各地のビジネスホテルなどを転々とする生活だったという。性風俗店で働きながら時折、「ボス」からの指示で、自分では使わない口座を開設したり携帯電話を契約したりした。

 受け子の“仕事”も、ボスからの「1週間ほど、尼崎(兵庫県尼崎市)にいるように」との電話が始まりだった。それまでの経験から「犯罪をするんだな」と分かった。「嫌だな」。そう思った。

 ボスの詳しい素性は知らない。40歳くらいで、熊のように大柄。出会いは、美咲が19歳のころにさかのぼる。

 美咲は当時、関西の性風俗店で働いていた。収入は少なくなかったが、ホストクラブやパチスロで散財する日々。紹介で知り合ったボスから金を借りるようになった。だが返しても返しても終わらない。だまされていたのか、いつしか美咲にも借金の額が分からなくなっていた。

 そんな時、ボスから「仕事を手伝わんか」と持ち掛けられた。仕事が犯罪行為と気付くのに時間はかからなかったが、「俺はヤクザとつながりがある」と脅された。

 やがて携帯電話やかばんなどを取り上げられ、ボスの監視下で「軟禁状態」に置かれるようになった。普段は指定された性風俗店で働き、借金返済を理由に、稼いだ給料から1日2千円だけ渡された。

 特殊詐欺などを手伝う以外に、犯罪に使う口座や携帯電話を確保するためか、グループの別のメンバーと偽装結婚もさせられた。美咲の姓は、好きでもない男のものだ。

 何か分からない薬物を注射され、グループ内で性的暴行を受けたこともあったという。既に抵抗する気力も、思考能力もなくなっていた。

     ◆    ◆

 法廷のやりとりでは、生い立ちにも話が及んだ。

 美咲は実の母を知らない。中学生のころ、それまで母親だと思っていた人が父の再婚相手で、義母だと知った。勾留後、手紙で取材に応じた美咲は、家族に対する子ども時代の思いをこうつづった。

 「父は昔から怒る時に手を出す人だったので、怖くてあまり好きではありませんでした。義母は、軽く嫌がらせをされていたので、好きではありませんでした。下の義妹と(実の)妹は、けんかになると決まって2人して私を責めてくるので、あまり好きではありませんでした」

 学校でも友達は少なく、1人で過ごすことが多かったという。家庭に金銭的な余裕はなく、中学卒業後は飲食店に就職。そこでも周囲になじめず、職を転々とした。17歳くらいの時に家出し、故郷の中部地方を離れて上京。ネットで知り合った友人と一緒に暮らすようになった。18歳になるとキャバクラや性風俗店で働き始め、稼いだ金をホストクラブにつぎ込んだ。話を聞いてくれたり、ちやほやされたりするのがうれしかった。

 「アパレル関係とか、なりたい(もの)はたくさんあった」と美咲。公判では、昔の自分について「楽な方向に流れていたと思う」との反省も口にした。だがその代償はあまりに大きく、流れ着いた先は、あまりに寒々とした場所だった。

 逮捕後、留置場から「会いに来てほしい」と手紙を書いた相手は父親だった。面会室で父の姿を目にして、美咲は「ごめんなさい」と泣き崩れた。父は、娘の姓が変わっていたのを初めて知った。それも偽装結婚によって。

 美咲に言い渡された判決は懲役2年。初犯だが実刑となった。「まず自分自身を大切にしないといけないと思いますよ。しっかりとやっていけますか」。裁判官に尋ねられ、美咲は小さくうなずいた。だが続けて「どうしてそう言えるのですか」と問われると、黙り込んでしまった。

 判決後は底冷えする冬の拘置所で毎日、ミステリー小説を読んで過ごした。「恋愛小説しか読んだことがなかったけど」。犯罪グループから離れた彼女に生まれた、小さな変化だった。

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