雪不足による冬場のスキー客の減少対策として、兵庫・但馬地域のスキー場が、春から秋までの「グリーンシーズン」の集客に力を入れている。マウンテンバイク（ＭＴＢ）の専用コースやキャンプ場など、新たな野外活動の魅力を開拓。スキーと同じく急な斜面でバイクを操る醍醐味（だいごみ）や、コロナ禍で「密」を避けて家族と過ごす時間を提供。スキー場関係者は緊急事態宣言の解除を待ち、今夏以降の利用拡大に期待する。（阿部江利）

　空中に浮かんだマウンテンバイクが、リフトで山頂へ上がっていく。

　週末の「アップかんなべスキー場」（兵庫県豊岡市日高町）。運営会社「アドバンス」の広報担当、浜田翔太郎さん（２８）は「リフトでバイクと一緒に山頂へ上がれる施設は、関西でここだけ」と胸を張る。

　ＭＴＢ専用コースのオープンは２０１９年夏。山の東側のゲレンデに設け、夏もリフトを動かす。広大な自然がファンの心をつかみ、コロナ流行前の１９年は年間約１６００人が訪れた。

　「これだけ自由に、安全に走ることができる場所はなかなかない」。バイク歴５年で、普段は六甲山などで走るという西宮市の男性会社員（４７）は年に数回はやって来る。コロナ後も人気が続くとみて、リフトのＭＴＢ専用キャリアは今春、１３基から２１基に増やされた。アドバンスの浜田さんは「待ち時間も半分になり、よりスムーズに楽しんでもらえるはず」と話す。

　但馬地域では近年、雪不足が続いている。スキー客も、１９年度（１９年１２月～２０年３月）は記録が残る１９８５年度以降、最低となる１６万３千人まで落ち込んだ。ピークだった９５年度（１４４万１千人）のわずか１割程度だ。

　２０年度は１２月から降雪に恵まれ、スキー客は前年度の約２・４倍、３９万８千人にまで戻した。しかしシーズン後半は気温が上がり、春を待たず雪が解けてしまった。降雪量の回復は見通せず、兵庫県はスキー場を支援するため、２０年度に造雪・降雪機だけでなく、雪のない時期に使う設備の拡充費用を補助する事業を展開。但馬県民局管内は、スキー場４カ所が冬以外の設備の充実を図る。

　一方、キャンプ場の開設も進む。２２日、アップかんなべスキー場のキャンプ場を訪れたのは、神戸市垂水区の男性会社員（３６）。「これだけ広い場所を使える所は初めてです」と語る。

　ホテル事業などを手掛ける「ＭＥリゾート但馬」は、運営するおじろスキー場（兵庫県香美町小代区）に昨年、１０床分のキャンプ場を開設。今年は３３床まで拡充した。

　ハチ高原（同県養父市）でもスキー場に隣接したグラウンドを使って、３０～４０床分のキャンプサイトを５月末にもオープンさせる。豪華なキャンプ設備を備え、人気の「グランピング」施設も計画する。豊岡市日高町の万場スキー場もキャンプ場の開設を予定している。

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■“密”回避で個人客呼び込む

　新型コロナウイルスの感染対策で、「密」を避けられる野外での活動が人気を集めている。関係者に聞くと、スキー場にはさまざまな利点があるという。

　ホテルやスキー場を運営する「ＭＥリゾート但馬」（養父市）の一ノ本智毅代表取締役（２９）によると、感染症の影響で、昨夏の営業は大きな打撃を受けた。学校の自然学校をはじめ、団体客は皆無になった。

　一方で野外教育プログラムはこれまでに培われている。スキー場にキャンプ場を設け、キャンプや山での過ごし方などのノウハウも提供すれば、従来の団体客だけでなく、個人客の呼び込みが期待できるという。

　また、全国でスキーリゾートの再生などを手掛けるマックアース（同市）によると、スキー場にはロッジやトイレが既にあるため、排水設備などは一定程度整っている。標高が高く、夏でもエアコンが不要な所もある。同社は「キャンプやアウトドア活動の需要拡大は全国的な傾向だ。但馬地域は道路網が充実し、神戸・阪神間が近くなって利用も増えてくる」とみている。