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新型コロナウイルス禍でひっそりと静まる夜の街。その陰で、メールや会員制交流サイト(SNS)を介した悪だくみが後を絶たない=神戸市中央区
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新型コロナウイルス禍でひっそりと静まる夜の街。その陰で、メールや会員制交流サイト(SNS)を介した悪だくみが後を絶たない=神戸市中央区
「本田浩二」が兄の交通事故を伝えるメール(左)。「小松桃」のメールと文面が同一だ(画像の一部を加工しています)
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「本田浩二」が兄の交通事故を伝えるメール(左)。「小松桃」のメールと文面が同一だ(画像の一部を加工しています)
高額の現金がもらえると称して、手数料などをだましとる詐欺のメール(画像の一部を加工しています)
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高額の現金がもらえると称して、手数料などをだましとる詐欺のメール(画像の一部を加工しています)
「本田浩二」から送られてきたチャットのメッセージ。返信すると課金される(画像の一部を加工しています)
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「本田浩二」から送られてきたチャットのメッセージ。返信すると課金される(画像の一部を加工しています)

 間違いメールをきっかけに、若い異性を装って悪質チャットサイトへの誘導を図る「サクラサイト商法」に、実際にだまされてみる「おとり調査」を実施し、その一部始終を記事(5月1日付)にした私(47歳・男性)の元に、北陸地方に住む女性(64)から一通のメッセージが寄せられた。全く同じ手口に掛かり、計155万円をつぎ込んだという。以下は女性の8カ月にわたる、苦々しい被害体験談である。(森本尚樹)

■始まりは「同窓会」

 「同窓会のことで話があるので連絡ください」

 三津子さん(仮名)がそのメールを受け取ったのは、昨年8月末のことだった。アドレスに心当たりはない。誰かと返信すると、翌朝に返信があった。

 「あれ? もしかしたら間違えて送信してしまったかも。男性の方ですよね?」

 相手がしつこく性別を聞くので、三津子さんは女性だと答えた。

 「俺は本田浩二って言います! ミスがあって偶然あなたに届いたみたいです。(中略)何かのご縁ですし少しお話しませんか?」

 三津子さんは夫と2人暮らし。出会いを求めていたわけでもなく、受け身のままに承諾の返事を送った。さっそく、「本田」から前のめりのメールが来る。

 「敬語は無しでいきましょう♪ あなたのお名前も教えて頂けますか?」

 「とりあえずミツコさんって呼んでおくね! 年齢いくつ?俺は28歳だよ」

 三津子さんは年齢を告げることはできなかった。だが、本田は気にせずメールを送り続けてくる。

■本田浩二=小松桃

 本田は東京・品川在住、父が経営する広告代理店に勤めているという。ここで、私が取り組んだおとり調査を振り返ろう。私がやりとりした27歳の「小松桃」も東京・品川在住、広告代理店勤務だと告げた。さらに、父は社長、経営者の子ゆえに友達が少ないのが悩みだと明かしていた。

 だから私は、本田のメールの文面に驚いた。

 「親父の経営する広告代理店で兄貴と俺は働いてるんだよね。それで相談があるんだけど、聞いてくれるかな?」

 「相談っていうのは、俺、友達が少ないんだ…。経営者の子だからまわりの人が気を使って」

 男女の口調の違いを除き、文面が同一なのだ。事態は1週間で急展開するが、これも全く同じ。兄が交通事故に遭い、本田は役員に昇格。携帯を解約する必要があり、一時的に「無料のチャット」でのやりとりを提案してくる。

 私はここで調査をやめたが、三津子さんは誘導されるままチャットサイトに入り、やりとりを続けた。だが、ここが運命の分岐点。地獄の始まりだった。

■1千万円もらえる

 チャットでも本田とのたわいもないやりとりが続いた。やがて、無料のはずのサイトの画面に「警告」が表示され、ポイント購入を求められた。無視していると、本田も催促してくる。指示されるまま、コンビニで電子マネーを買った。

 ある日、本田が「1千万円もらえるチャットの企画がある」と言ってきた。2人で手続きすれば現金がもらえるという。信じなかったが、別のチャット会員が現金を手に「もらいました!」と喜ぶ写真付きメッセージを真に受けた。

 だが、求められた費用は14万円。入金すると、次は7万円、9万円と請求され、「システム設定同期」に17万円、「セキュリティー導入」に12万円と際限がない。本田は「経費は後で返ってくる」とあおり続けた。「元を取らないと」と気が焦り、入金を続けた。

 現金獲得をあきらめた時点で、投入額は133万円に上っていた。

■寄ってたかって   

 その後、本田の会社の経理担当「木幡」が登場し、経費返還の手続きをするという。木幡とのやりとりや、指示される操作にもいちいち課金され、手続きは終わらない。さらに、常務の「津村」も参入し、本田との関係の口止めなど次々と問題を持ち出しては返信を求める。

 本田本人もチャットが永久無料となる会員資格取得を持ち掛けてきた。誘いに折れて10万円を入金すると、さらに追加の入金を催促される。木幡、津村からの要請や指示もしつこく、責め立てられる毎日に気が狂いそうになっていた。

 そんな時、インターネットで神戸新聞記事を見た。同じ手口、文面に心が凍りついた。一方で、あらゆる強迫から解放され、気が楽になっている自分がいた。

■泣き寝入り    

 私は地元の消費生活センターか警察への相談を勧めた。だが、三津子さんは「夫にも誰にも話していないので、表立った動きはできない」と拒んだ。

 三津子さんは「詐欺被害のニュースを見るたびに『なんでだまされるんかな』と思っていたけど、まさか自分が」と力なく振り返る。それは多くの詐欺被害者の実感だろう。

 神戸市消費生活センター(神戸市中央区橘通3)の相談指導係長、吉野正人さん(46)によると、お金を取り戻すには、相手に詐欺や契約違反を認めさせて返してもらうしかなく、多くは法的手段が必要になる。吉野さんは「結局、うまい話を簡単に信じないということに尽きる」と話す。

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