兵庫県の西播磨地域には１３０を超える山城跡が点在する。主に中世の時代、戦の拠点として使われた山城は高地にあり、ほとんどが天守を持たない。それ故、どこか埋もれた存在だったが、新型コロナウイルス禍で観光業が逆風を受ける中、地元自治体が地域の観光資源に育てようと力を入れている。密を避けながら歴史に浸り、かつ自然も満喫できるのが魅力で、各市町の代表的な山城を「山城イレブン」としてＰＲしている。（勝浦美香）

　県西播磨県民局を中心に「西播磨山城復活プロジェクト」と銘打って取り組みを本格化させたのは１年前。管内４市３町（相生、赤穂、宍粟、たつの市、太子、上郡、佐用町）も巻き込んで動き始めた。

　コロナ感染が広がる前は、世界文化遺産・国宝姫路城（姫路市）を訪れたインバウンド（訪日外国人客）の足を周辺の西播磨に向けるのが狙いだったが、コロナ禍の逆風を受け、当面のターゲットを国内に変更。専用サイトを開設したり、山城の往時の姿をコンピューターグラフィックス（ＣＧ）で立体的に再現するスマートフォン用アプリを配信したりと情報発信を強化した。

　中でもＰＲに力を入れるのが、各地を代表する「山城イレブン」だ。かつて合戦の舞台などになった場所で、敵の侵入を阻むために尾根を分断した堀切や土塁、石積など防御施設の遺構も多く残る。

　新設のサイト「西播磨の山城」（https://www.nishiharima.jp/yamajiro/）では、イレブンの歴史や見どころをたっぷりと紹介。山城ごとに登山の所要時間や標高、求められる「体力度」や「技術度」も示し、トイレや駐車場の場所も細かく説明している。事前に雰囲気がつかめるよう、登山の様子を撮影した動画もある。

　さらに今春からは、イレブンを訪れた記念の「御城印（ごじょういん）」を地元の道の駅などで販売。ゆかりの武将にちなんだイメージキャラクターをつくる計画もあり、多彩な仕掛けで誘客を図る。同県民局の担当者は「山城巡りはストレス解消や健康づくりにもつながる。貴重な地域資源を生かしたい」と意気込む。

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■ツアー完売６割が女性

　兵庫県西播磨県民局は昨年１０月から今年４月、城郭研究家らを案内役に、山城を巡る日帰りのモニターツアー「山城へＧｏ」を計８コースで実施。定員は各１３～２０人で、いずれも有料（３千～５５００円）だったが、完売する人気ぶりだった。主なターゲットに想定していた歴史好きの男性や元気な高齢者だけでなく、女性の参加が目立ち、「うれしい誤算」と喜ぶ。

　モニターツアーでは参加者の６割を女性が占めた。１人での申し込みも多く、同県民局は「ツアーを組むことで、『単独で山城に登るのは不安』とためらっていた層にアプローチできたのかも」と推測する。

　今年４月、佐用町平福の国指定史跡・利神（りかん）城跡で地元有志が始めた登山ガイドツアーでも女性の姿が目立った。同県西宮市から参加した会社員の女性（４４）は「とても“攻めがい”があった」と満足そうに話した。

　女性が西播磨など各地の山城巡りを始めたのは２年前。もともと山登りが好きだったわけではないが、随所に防御施設や急斜面があり、「戦に備えた工夫が見えてくるのが面白い。攻め込む気分を味わえるのも醍醐味（だいごみ）」と魅力を語る。

　利神城ツアーは緊急事態宣言で休止中だが、解除後は毎月１～３週目の火曜日に催す予定。主催する佐用山城ガイド協会の春名政男会長（７１）は「利神城の石垣は国内有数。コロナが収束したら、多くの人に訪れてもらいたい」と話す。同ツアーの予約などは専用サイト（https://sayoyamajiro.wordpress.com/）で。