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「師匠が大恩人」と語る桂文福さん=大阪市北区
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「師匠が大恩人」と語る桂文福さん=大阪市北区
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「師匠が大恩人」と語る桂文福さん=大阪市北区
五代目桂文枝さん
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五代目桂文枝さん

 河内音頭や相撲甚句などでも知られる落語家、桂文福さん(68)=奈良県生駒市=は、子どもの頃から吃音(きつおん)と向き合ってきました。文福さんが「大恩人」と語るのが、師匠の5代目桂文枝さん(故人)です。「吃音で悩んだけど、しゃべりの世界で頑張ってる。吃音やから、今がある」という文福さん。心温まる師匠とのエピソードや吃音との付き合い方について尋ねました。(中島摩子)

 取材の依頼を快諾してくれた文福さんが集合場所に指定したのは、上方落語の定席「天満天神繁昌亭」前でした。日差しのきつい真夏の午後1時。文福さんがうちわをあおぎながら現れました。

 「暑いですな! よろしゅうたのんます!」

 足元は下駄。目に鮮やかなピンク色の法被姿で、写真の撮影とインタビューのスタートです。

 取材は半世紀以上前、文福さんが小学生のころの話から始まりました。

--どんな子どもでしたか?

文福「しゃべったら、笑われたり、ちゃかされたりして、小学校の思い出は浮かびません。「あ、あ、あ」となったり、詰まったり。授業で手を挙げても、やっぱり下ろしてしまう。人前がおっくうで、遠足も運動会も嫌でした。とにかく自信がない子どもでした」

文福「出身の和歌山県は相撲が盛んで、中学は相撲部に入りました。勝つことを覚えて、自信が付いて、その頃から前向きになっていったと思います。相撲に救われました。高校は柔道部で、体を動かして発散していました」

 少年時代、話すのは苦手だった一方、絵を描いたり、文章を書くのが得意だったという文福さん。高校では柔道部に誘われる前、美術部に入部していたそうです。この日、身につけていたピンクの法被には、自分で描いた似顔絵がデザインされていました。手ぬぐいもピンクで似顔絵入り。定期的に発行している冊子「五代目桂文枝いちもん新聞」は、文福さんが編集長です。少年時代の得意分野が今につながっています。

--なぜ落語家になろうとしましたか?

文福「高校の頃、上方落語の大ブームで、落語が好きで憧れていました。自分がうまくしゃべれないかわりに、落語や漫才の話芸の達人に、尊敬の念を抱いていました。直接のきっかけは、高校卒業後、集団就職で大阪に来て、当時三代目桂小文枝だった五代目桂文枝師匠の生の芸を見たことです。なんばグランド花月で、師匠が1人で笑いを取っているのを見て、「すごい!」と魅了され、落語家になるんやと決めました」

文福「当時は大日本印刷大阪工場に勤めていて、作業着に安全靴で、師匠の楽屋に通いました。1971(昭和46)年の秋です。田舎者の紀州弁丸出しで、『おいやん!! 弟子にしてけーよ!ファンよ』って。『おいやん』は『おじさん』の意味です。師匠には『いねっ!』と言われました。けったいなやつが来たと思われたと思います。その後何回も通って、断られて…。でも、頑張っている気持ちが伝わったのと、紀州弁も理解してもらえ、『うちにこいよ』と入門が認められました」

--入門してからの思い出は?

文福「私の場合、紀州弁のため、例えば「ゾウさん」が「どうさん」となります。吃音もあります。舞台経験がある落研(落語研究会)出身者とはレベルが違い、「しもたー」と思いました。同期や後輩と比べて悩みました。同期は笑福亭鶴瓶とかで、後輩は明石家さんまです」

--初舞台はどうでしたか?

文福「初舞台は1972(昭和47)年の秋です。大阪のお寺でした。実家などに告げず、そっと初舞台に立つはずが、席におふくろがいてびっくりしました。師匠の奥さんが伝えていたようです。おふくろと目があって、緊張して、途中で言葉が出なくなりました。ボクシングでタオルが投げられるみたいに、太鼓が鳴らされました。落語なので『手ぬぐいが投げられた』と、今では言っています。その後、おふくろが師匠に『お世話になりました。この後、息子を連れて、和歌山に帰ります』と言いました。すると、師匠と奥さんが笑って『どないでもなりますわ。なに言うてますねん』って」

文福「その後も、いまひとつうまくできないし、後輩とかと比べて劇場で出番がもらえないし、アルバイトばかりして、悩んでいました。そんなとき、師匠に言われました。『お前には独特の間があるねん。間を大事にせーよ』って」

 繁昌亭の前で取材をしていると、次々にお客さんから「師匠~」と声がかかります。そのたびにと笑顔を返し、「いちもん新聞」を手渡しする文福さんです。

 繁昌亭前での撮影が終了し、近くの喫茶店に移りました。ここでも、お客さんから「師匠~」と声がかかります。

 文福さんの「個性」を、うまく引き出してくれたのは師匠でした。喫茶店では師匠とのエピソードが披露されました。

文福「私はリズムが付くと、不思議と、すーっと歌うことができます。高校時代から得意だった河内音頭や相撲甚句を『ええやないか』と言ってくれたのも師匠です。宴会芸や楽屋芸だったのを舞台でやれと言ってくれ、自分の武器になりました。テレビ番組で24時間マラソン河内音頭というのをやったこともあります」

文福「師匠は私を一切、ばかにしませんでした。『土台と幹がしっかりしていればいい。枝は自由に伸ばせばいい』という考えで、個性を大事にしてくれました」

--幹や土台とは何ですか?

文福「幹とは「落語が好き」「やりたいのは落語」という気持ちです。そして、私の場合、自由に伸ばしたのが河内音頭と相撲甚句です。落語がもっとうまい人はいるけれど、河内音頭もできるのは私だけ。師匠は大恩人です」

文福「入門して10年目に出場したコンクールも転機になりました。それまでは古典落語をきっちりしないといけないと思っていましたが、いちかばちか、体験談を基にした新作落語「文福の青春日記」をやりました。詰まったり早口になったり、なまりが出たりしながら、勢いそのままやったらうけて、審査員奨励賞でした。また、吃音で詰まったとき、なんとか工夫して『ター!』というせりふを言うようにしていたら『ター!』がおもしろいと言われるようになりました。工夫でいうと、例えば、『カレーライス』は言いにくくても『ライスカレー』なら言いやすいなどもあります」

--師匠との一番の思い出は?

文福「入門して1年ぐらいで、師匠の家が改築中だったときのことです。師匠は家族と1階ですき焼きを食べていて、私は2階にポットを取りに行きました。改築のため2階は畳が上げてあったのですが、そこを歩いていた私は、ブボッと、天井板をぶち抜いてしまいました。すき焼き鍋の真上で、天井から私の足がブラブラと飛び出しています。はいていた草履がすき焼き鍋の中に入るわ、師匠の頭は木くずだらけになるわ…。子どもは泣いて、奥さんは大笑いしていました。『あほんだら』って師匠に怒られると思ったら、『文福、けがないか?』って。懐が深い師匠です。本当に大事な出会いです」

--吃音のある人へのメッセージは?

文福「詰まりながらも一生懸命、心を込めて、しゃべったら、相手に伝わると思います。すーっと話す政治家の話、心に響かないでしょう?」

文福「今で入門50年目です。吃音で悩んだけど、『しゃべりの世界』で頑張ってる。吃音やから、田舎もんやから、今がある。こんな男でも、そこそこやっていける。誰かの、一つの励みになれたらいいな、と思います。1人で悩まんと、扉を開く勇気を持ってほしいです」

--文福さんも師匠になられました。ピンク落語の桂ぽんぽ娘さんや、無口な桂まめださんなど、バラエティーに富んでいますね。どんなふうに接していますか。

文福「私には弟子が7人いますが、自閉症だったり、いじめられたり、不登校を経験していたり、みんないろいろあります。そしてみんな、何か、ええものを持っています。自分の得意分野を持ち、特徴を出すことが大事です。師匠の教えである、個性を大事にせぇ、とみんなに伝えたいです」

 文福さんを育てた師匠の教えは、こんなふうに実践されていました。「笑いの力でコロナ禍で苦しむ人々に、少しでもお役にたてるようにしたい。芸は人なり。誠実に正直に、全力投球で力を抜いたらあかん」と文福さん。

 文福一門のキャッチフレーズもうかがいました。

「笑顔はええ顔!出会い、ふれ愛、わきあいあい!」

<取材を終えて>

 桂文福さんは、取材の中で何度か、五代目桂文枝師匠のことを「おやじ」と呼びました。「おやじ」との出会いがあるから、今の文福さんがある。コロナ禍で人に会えない。密な関係を築けない。だからこそよけいに、文福さんと師匠の話に心ひかれました。やっぱり人に会いたい。じっくり関わりたい。

<神戸・新開地の喜楽館に桂文福さん出演>

 桂文福さんは9月6~12日、神戸新開地喜楽館の昼席に上がる。桂ぽんぽ娘さんも出演。午後2時から午後4時15分まで。前売り2300円、当日2800円。喜楽館TEL078・335・7088

 天満天神繁昌亭では「桂文枝一門ウィーク」(昼席)があり、9月13日と18日に出演する。午後2時から午後4時半。前売り2800円、当日3000円。繁昌亭TEL06・6352・4874

<インターネットも>

 ユーチューブでは桂文福さんが出演する番組「たぬき小屋から福もろ亭」を配信中。9月7日に100回の節目を迎え、得意の河内音頭を披露する回も。

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