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盗撮を繰り返した男性は「罪は一生なくならない」と話した=神戸市内
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盗撮を繰り返した男性は「罪は一生なくならない」と話した=神戸市内
再犯防止に取り組む中村大輔さん=神戸市内
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再犯防止に取り組む中村大輔さん=神戸市内

 「#MeToo」運動やフラワーデモなどをきっかけに、性被害に遭った女性たちが声を上げている。女性を狙った犯罪を、この世界からなくしたい。勇気を出して訴える彼女らの姿を見ながら、本当に語らなければならないのは加害者なのではないかと感じていた。直接、顔を合わせることに恐怖や抵抗感もあったが、加害者の声を聞くことで見えてくるものがあるはず。そう考え、加害者の元に足を運んだ。

 話を聞いたのは、妻と2人暮らしという30代の男性。色白で真面目そうな風貌に、絞り出すような小さな声が印象的だった。

 男性のスマートフォンには女性の盗撮動画データが120本残されていた。常習犯だった。

 2年前、仕事終わりの午後、盗撮目的で書店に立ち寄った。立ち読みをしていた女性のスカートに、録画モードにしたスマホを差し入れた。

 「触れる暴力と違って、盗撮は相手を傷つけないと思っていました。もちろん性犯罪という認識はあったけど、自分だけで楽しんでいるからいいやろって。簡単に盗撮ができるスマホが手元にあったのも要因です」

 書店員に声を掛けられ、兵庫県迷惑防止条例違反容疑で現行犯逮捕された。相手の女性にはその場で謝罪したが、目を合わせてもらえなかったという。当然だ。被害者は恐怖と憎悪で、一刻も早くその場を去りたかっただろう。

 逮捕の一報を受け、妻の衝撃は大きかった。だが、男性の思考はその時、妻には向かわなかった。

 「テレビにでも出たら大変や。仕事もクビになったらどうしたらええんやろう、と自分のことばかり考えていました」

 なぜ。自分の犯罪行為が、取り返しのつかないほど妻を深く傷付けると想像しなかったのか。

 「妻の信頼を裏切ったと思う。ただ、結婚しても、いつも自分は一人だと感じていました。ずっと一人、死ぬまで一人、だから誰にも迷惑はかけてないやろ…と。言葉には出さないけど、そんな身勝手な思いが心の奥底にありました」

 小声でとつとつと話していた男性が「動機」を語り始めた。

     ◆

 事件の約2年前、男性は転職と新居購入という人生の大きな決断を相次いでした。

 責任感はやがて「人に頼ってはいけない」という考えにつながり、ストレスを抱え込むようになった、という。

 「職場でもプライベートでも人間関係が希薄になっていました。そんな時のぞいたアダルトサイトでは、たくさんの盗撮動画が見られる。僕でもできるんじゃないかと思ってしまったんです」

 「盗撮は自分が楽しむだけで、相手を傷つけない犯罪と思っていた」と男性は言った。しかし、たとえ犯人が逮捕されても、自分の写真や映像が流出し、いつどこで悪用されるか分からない。インターネットで拡散される可能性もある。

 男性は今、自分自身を見つめ直すためにカウンセリングに通っている。男尊女卑の意識が強かった両親のもとで育ったことや、望んだ女性と交際できなかった過去などを振り返っているという。

 「深層心理で『女性は弱いもの』という考えがあったことを自覚しました」

 礼儀正しくあいさつをし、話も理路整然としている男性。真剣に反省しているようにも見え、どうしてこの人が、という思いが最後まで消えなかった。

     ◆

 もう一人、男性に会った。20代の会社員。

 5年前、仕事帰りの夜、1人で歩いている若い女性に後ろから近づき、いきなり首を絞めた。1年ほどの間に複数人に同じ行為を繰り返し、暴行容疑で逮捕された。

 この男性も動機を「職場や家庭でのストレス」と説明した。

 だがそれは多くの人が抱えていることではないのか。問題はなぜ、そのはけ口を女性に向けてしまうのか、だ。

 2千人以上の性犯罪者の治療に関わってきた大船榎本クリニック(神奈川県)精神保健福祉部長、斉藤章佳さんは「加害者は『電車の中』や『見知らぬ女性』などの状況や条件付けによって、被害者を一人の人間ではなく、モノとして扱う特徴がある」と指摘する。

 「モノ化」して相手を支配することで、ストレスの発散や優越感を抱き、自身の傷ついた自尊心を回復させる目的があるという。

 斉藤さんは「自分自身が虐待などでモノ化されてきた過去や、幼い頃から家庭やメディアなどを通して培われた日本特有の男尊女卑的な価値観が根強く影響している」と説明した。

     ◆

 取材した男性2人の再犯防止心理教育プログラムに取り組むのは、神戸市中央区の臨床心理士、中村大輔さんだ。

 「加害者に再犯防止への思いがあれば、教育をしているうちに被害者や女性に対する考え方が変わってくる」と中村さんは話す。

 精神分析的心理療法や認知行動療法といった手法を通じて、加害者の生い立ちを振り返り、自身の葛藤などを見つめ直すように促しているという。

 カウンセリングルームには加害者本人だけでなく、保護者や配偶者も足を運ぶよう勧めている。中村さんの経験では、性犯罪加害者にとって配偶者の存在は再犯への抑止力になりやすく、家族が加害者本人の犯行時の心情や要因などを知ることも重要という。

 2015年の犯罪白書によると、刑の確定から5年経過時点の性犯罪加害者の再犯率は約20%。とりわけ痴漢は44・7%、盗撮は36・4%と高い。再犯者が減ればその分、新たな被害者は減る。

 性犯罪は人の尊厳をふみにじる犯罪だ。だからこそそれは、人とのつながりによって止められると信じたい。

(名倉あかり)

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