もう一度、蒔絵(まきえ)の制作現場を見たいという気持ちがあった。3年ほど前に兵庫県宍粟市山崎町の京蒔絵師、武野恭永(たけのきょうえい)さん(75)のアトリエで取材させていただいた記憶が鮮烈だったのだ。光沢をたたえる黒の上に金で施された微細な模様。漆黒と黄金が生み出す世界は記憶の奥底に刻まれている日本の美そのものだ。晩秋の午後、武野さんが指導に当たる神戸の教室を訪ねた。(加藤正文)
マンションの一室に入ると作品づくりの真っ最中だった。べっ甲かんざし、貝合わせ、なつめ…さまざまな工芸品は蒔絵によって不思議な命を宿す。「難しいから楽しい。先生のおかげで自分の作品ができるのがうれしくて」。この日は3人のベテラン受講生が和やかに取り組んでいた。師匠の武野さん、指導役の泉元紫紅さんが柔らかな雰囲気を醸し出している。
蒔絵とは一口で言うと、「漆で描いた上に金銀粉や色粉などを蒔きつけて器物の面に絵模様を表す技法」(「広辞苑」)だ。木地、塗漆、蒔絵、青貝・螺鈿(らでん)。京都漆器工芸協同組合編の資料によると材料・工具・技術はこの四つにわかれるという。いずれも奥の深い世界だが、「蒔く」という動詞に限りない魅力を感じる。
本欄は「仰げば楽し」なので傍らの武野さんに迫ろう。生まれは宍粟市山崎町。父は名人といわれた京蒔絵師の武野金霞(きんか)(1999年死去)。地元の山崎高卒業後、父の下で学び、71年、京都の茶道具漆器商、鈴木光入師に入門。ここで徹底的に蒔絵の神髄をたたきこまれた。
以前訪ねた武野さんのアトリエで目を見張ったのが「線描き」という手法だ。大きな屏風(びょうぶ)も小さな貝合わせもかんざしもみんな基本は線だ。
「ちょっとやってみる?」。渡された細い蒔絵筆を握る。何とも心地よい。〈世界で一番細い線を引くことができる〉といううたい文句があるが、筆は琵琶湖の周辺のネズミ3~5匹の毛から1本をつくるという。武野さんは「1ミリの間に3本の線が描ける」という円熟の境地だ。
漆をつけて恐る恐る線を引いてみた。繊細な筆にもかかわらず、結構、描ける(気がする)。ごく少量しか漆をつけてないのだが、意外に延びる。受講生の一人が「手が震えてないから筋がいい」。うれしくなってそのままゆっくりと線を引き続ける。
握りと筆先が絶妙の感触だ。武野さんによると線描きは「毛打ち」ともいい、「生きるも死ぬも毛打ち次第」なのだそうだ。基本中の基本をひたすら繰り返すのはどの世界にも通じる極意だと感じ入る。
線に金粉が蒔き込まれ、そこに柔らかな光が宿る。画面に奥行きのある景色が生まれる。蒔絵の習得となるとこれははるかな道のりだが、この世界に魅せられて入門した受講生たちは充実した面持ちだ。工芸の世界は自分との対話だが、同好の士とともに師を囲み、時を忘れて打ち込む。これほど楽しいことはないだろう。
武野さんは宍粟市、佐用町、神戸市で教室を主宰。来年2月からは姫路市の書写の里・美術工芸館でも開講する。「蒔絵の美しさを広めたいんです」。
【漆器の世界】京漆器は京塗や京蒔絵とも呼ばれ、日本を代表する漆器の一つ。1976年に伝統的工芸品の指定を受けた。起源は桓武天皇による794年の平安遷都までさかのぼるとされる。京都が都として栄えるにつれ、多くの技術や技法が発達した。蒔絵は日本固有の漆工の技法。
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