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万引常習者の女性(左)が服役中に、次男(右)へ送った手紙には繰り返し反省の言葉がつづられていた=神戸市内
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万引常習者の女性(左)が服役中に、次男(右)へ送った手紙には繰り返し反省の言葉がつづられていた=神戸市内
神戸新聞NEXT
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 高齢女性の万引が目立っている。法務省の犯罪白書によると、2019年に万引で摘発された65歳以上の女性は全国約1万人。刑法犯で摘発された全人員の5%以上を占め、女性高齢者による刑法犯の75・6%に上る。再犯、累犯の多さも課題となっている。ある万引常習者への取材を通して、その背景を探った。(井沢泰斗)

 神戸市に住む女性(65)は3月、スーパーで食料品7点を盗んだとして、兵庫県警に逮捕された。夕飯の買い出し中、持っていたエコバッグに焼き鳥やチーズをそっと入れたところを、店の警備員に見つかった。

 お金がなかったわけではない。それどころか、スーパーを訪れる直前、女性は約1万円の靴を購入していた。「普段より少し高い買い物。その分、何とか埋め合わせしたい」。焦りのような感情。それが今回の動機だったという。

 女性はこの30年間で少なくとも3回は逮捕され、1年8カ月の懲役刑も経験した。自立支援を目的にしたグループホームに入り、福祉施設で働きながら更生を目指していた-はずだった。

 「お母さんは親失格です」。刑務所から息子へ送った手紙には強い後悔がつづられていた。しかし、出所から約3年後、同じ過ちを繰り返した。

 女性が初めて万引をしたのは30代前半のころ。本人は「当時は夫による日常的な暴力や、金遣いの荒さに参っていた」と振り返る。

 夫は警察官。厳格な実父も同じ職業だった。家計のやりくりは女性に任されたが、夫に毎月10万円の小遣いを求められた。3人の息子の塾代や携帯電話代もかさみ、徐々に追い詰められたという。

 やがて「食費を切り詰めたい」という小さな動機から、自宅近くのスーパーで食料品を盗むようになり、数回成功した。だが、何度目かで発覚して夫と離婚。その後は自身の飲酒が増えて判断力も衰え、理由も分からぬまま罪を重ねた。

 万引常習者になった女性。更生を支援してきた次男(40)は「それでも、(私たちが幼い頃は)好きなことをさせようと頑張ってくれて感謝している。幸せに暮らせるように手助けしたい」と語る。

 女性は今、臨床心理士のカウンセリングを受けている。担当する中村大輔さん(38)=神戸市中央区=は「一部の女性にとって、万引はイライラして壁を殴るのと同じ。負の感情を埋める方法が、物を盗む行為に結び付いてしまっている」と分析する。

 中村さんは「高齢の女性の中には、家事や子育てに追われた人生への『不遇感』を抱える人も多い。毎日買い物に行っていると、そういうストレスがより現れやすいかもしれない」と構造的な要因を指摘する。

■再犯防止へ公的支援強化を 本人、家族だけの対策困難…

 女性に限らず、高齢者の万引は社会全体の課題となっている。窃盗犯罪に関する著作が多い明治学院大専任講師の萩野谷俊平さん(犯罪心理学)は、高齢の万引常習者には(1)現実に対する認知のゆがみ(2)リスク意識の低さ(3)初期の成功体験-という共通点があると指摘する。

 高齢者の万引に関する統計を分析すると、「貧困でないのに他者より生活が苦しいと感じる人」と、「万引行為や自身の不遇の原因を店や社会に転嫁し、正当化する人」に大別される。自身や他者へのゆがんだ認知(1)が、盗みのハードルを下げる可能性があるという。

 さらに、万引が発覚したときの結果を想像できず、甘く考える傾向(2)があり、金を払わずに商品を得られた成功体験(3)も、常習化を助長する要因の一つとなるという。

 萩野谷さんは「高齢化で同様の再犯者は増える可能性があり、常習化する前に地域社会が支援する取り組みが必要だ」と強調する。国が2016年に施行した再犯防止推進法は、再犯者の社会復帰に向けて自治体が就労支援や福祉の提供、住居の確保などの施策を講じるよう定める。

 常習者の女性(65)の更生を支える次男(40)は「加害者側が言えることではないが」と前置きしつつ、「本人や家族だけで再犯の原因や対策を見つけるのは難しい。カウンセリングや支援施設の活用にたどり着ける公的な仕組みを」と訴える。

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