「ポリオ」と聞くと、多くの人が乳幼児の予防接種をイメージされるのではないでしょうか。でも、半世紀前には5000人近くが罹患する大流行が起き、子どもを中心に手足などにまひが残る患者が相次ぎました。それから長い年月を経て、平均70代になった患者たちは今、2次後遺症である「ポストポリオ症候群(PPS)」に直面しています。今年1月、それぞれの生活上の工夫を集めた「ポストポリオなんてこわくない」を出版した「全国ポリオ会連絡会」運営委員で、ポリオネットワーク代表の柴田多恵さん(66)=神戸市須磨区=を取材しました。(広畑千春)
■「普通と一緒よ」その言葉に支えられ、すがった
「『受容』とか『障害を受け入れる』っていう言葉は、私は好きじゃないんです。受け入れることなんて到底できない。いつだってポリオ患者としての人生が嫌だったし、今だってサンダルを履きたい。でも仕方ないから、障害に『適応』して行っているんです」
ポリオウイルスは脊髄の運動神経細胞を破壊し、まひを起こす。柴田さんが罹患したのは2歳の頃。大流行の3年前だった。物心ついたときには左脚にまひがあり、今も右足のサイズは24cmだが、左足は22cm。左脚は筋肉が付きづらく、ふくらはぎは右脚に比べ一回り以上細い。
まひの程度は人によって違うものの、体が回復すれば細胞は新たに増殖しようとするため、多くの患者は機能回復訓練を重ね、健常者と同じように社会生活を送ってきた。子どもたちも多くが通常学級で学んだ。
柴田さんの両親も娘のために左脚をサポートする革靴を特注し、何か不自由があっても「こんなの大したことじゃない」「普通と一緒よ」と笑顔で励ましてくれた。体が動きにくい分、勉強では絶対に負けたくないと人一倍努力して大学に進み、教員に。階段も普通に上り、スポーツも楽しむなど、常に健常者の中で同じように振る舞った。18歳のとき車の免許を取るために取得した障害者手帳も、タンスの奥にしまい込んだまま。結婚退職し、子どもも生まれたが「頑張れば、普通かそれ以上にできる」という思いはずっと変わらなかった。「私たちは、強くならざるを得なかったんです」と笑う。
◇
■「ミニスカートが嫌いで」「ほんまやね」パンドラの箱が開いた
だが、40歳が近づく頃から、足の衰えを感じるようになった。「健常者と同じようにプレーできなくても、トレーニングをすれば筋力は戻るはず」と、生まれて初めて“障害者向け”テニス教室に参加し、カルチャーショックを受けた。打ち損じるとコーチが「遠い所に打ってごめん」と謝ってくれる。小さいころからリレーでは計測係を買って出て、チーム競技も「上手くできなくてごめんね」と謝ってきたが、その日初めて心からプレーを楽しめた。
さらに、そこで出会った女性に「私、実はポリオなの」と打ち明けられ、思わず「私も」と答えた。「ミニスカート嫌いで…」と言うと「ほんまやね」と返してくれる。同じ境遇の人と話すことが、これほど肩の荷を軽くしてくれるとは。ずっと「普通と同じ」と育ててくれた両親の言葉に支えられ、すがってきたが、パンドラの箱を開けた思いだった。
「自分と同じように誰にも心の内を吐き出すことのないまま、無理をし続けている人がいるかも知れない」と、阪神・淡路大震災のあった1995年の春に「ポリオの女性の会」を始めると、次々に参加者が増えた。「耐え続けた半生を振り返って何度も何度も泣いて、泣き疲れて笑う人も。新しく入ってきた人はまた泣く。人生が大きく変わった」。自分たちの病気が一体どんなものなのか初めて真正面から向き合い、多くの人が言い知れぬ不安を抱えている体の衰えが「PPS」だと知った。
◇
■頑張りすぎないで
PPSは加齢で神経細胞に疲労が生じて起きるとされ、「いわば赤字経営を続けてきた体がもう耐えられなくなっている状態」と柴田さん。若い頃と同じようにトレーニングをして逆に症状を悪化させてしまった人もおり、「思うようにいかなくなった体に『これは何なんだ』と混乱し、落ち込む。情報や無理をしない知恵を共有できれば、まひした手足をもっと長持ちさせることもできる」と話す。
2000年にはポストポリオの症例などを解説した「ポリオとポストポリオの理解のために」を発行し、翌年に「全国ポリオ会連絡会」が発足。2013年には体験談を集めた「ポストポリオと生きる」をまとめ、今年、全国の患者らが工夫して生活している様子を写真付きで紹介する「ポストポリオなんてこわくない」を出版した。活動を始めて30年近くになるが、今でもPPSと気付かず症状を悪化させるケースや、頸椎まひなどと誤診されたりする例もあるといい、「患者にも医師にも広く知ってもらいたい」と訴える。
一方で、常に疑問に思い続けてきたのは、「障害を乗り越える」という言葉や、それを美談として称賛する社会の姿だ。それは、50代から施設長として働くデイサービスの現場にも通じる。
「2次後遺症が起きるのは『頑張りすぎた』から。障害は『越え』なければならないものでしょうか。もし私が健常者と同じスピードでなく、私なりのスピードで歩くことを認めてくれるなら、私の足のまひは『障害』でも何でもなくなる。老いも、病気も同じ。健常者を基準にして、その差を縮めるよう頑張れと鞭打つのではなく、まるごと受け入れてほしいと思うのです」
「ポストポリオなんてこわくない」はA4判、94ページ。600円。詳細は全国ポリオ会連絡会のHP(http://www.zenkokupolio.com/)で。
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