「人がやってないことをやるのが無性に好き」という俳優の近藤芳正。新作の舞台「ナイフ」は、3役を演じ分ける一人芝居だ。衣装替えなしで瞬時に父母や息子に入れ替わるのは「無謀な挑戦かもしれない」と笑いつつ、「あがくことで計算できない何かが生まれるんじゃないか」と可能性を追い求める。
原作は重松清の坪田譲治文学賞受賞作。おとなしく目立たない父親は、中学生の息子がいじめに遭っていることを知る。母親の心配をよそに、そっとしておこうとするが、帰宅途中にいじめの現場を目撃。激情に駆られ、露店で買った小さなナイフをポケットの中で握りしめる-。
近藤が愛読する重松作品の一つ。「3人とも器用に生きていける人ではない。大事なのは一歩踏み出す勇気。その前と後では見える風景が違う」と話し、60歳を迎えての自身のチャレンジに重ねる。
コロナ禍では「創ったものを見せられないのは耐えがたい」と、舞台から距離を置く気になった。配信もやってみたが、劇場での交流もなく、感想を聞くのはネット上で。「本当にやったのか手応えがない」と感じた。それだけに一昨年の中止を経て再び挑む、この企画への思いは深い。
「お客さんは大体、こちらの意図と違うところを面白がったり、感動したりする。そういう『小さな誤解』がうまくいけば。僕は一生懸命やるだけです」
昨年の結婚を機に京都へ移住。「地元に芝居を根付かせることをした方がいいのか、ゆるりゆるりと考えていて。新たなやりたいことが出てくるんじゃないかな」。関西演劇界をぜひ、盛り上げてほしい。
兵庫公演は2月11日午後2時、西宮市の県立芸術文化センター。一般4千円、高校生以下2千円。同センターTEL0798・68・0255
(田中真治)
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