洗髪台を使わず、椅子に座ったまま髪を洗えるサービスが神戸の美容室に登場した。細かい蒸気と専用シャンプーを組み合わせて頭皮の汚れを取る特許技術で、美容室では国内初のサービスという。あおむけになって洗髪台に頭を載せる一般的な方法よりも、首や背中への負担が大幅に軽減される。近くボディーソープも発売され、医療・介護分野にも展開する。

　サービスを始めたのは、約１５年前に神戸発の「巻き髪ブーム」をけん引した美容室「ＣＡＲＥ」（神戸市中央区）。洗髪中にめまいや体の痛みを訴える人がおり、解決策を模索していた。

　手順は「スチーマー」と呼ばれる機器で約４０度の蒸気を頭に当て、皮脂の汚れなどを浮き上がらせる。専用シャンプーで洗い、もう一度蒸気を当てた後にタオルで水分を拭き取る。所要は１５分程度と、洗髪台での流水シャンプーと変わらない。細かい水の粒なので髪の毛に浸透しやすく、洗い上がりはふんわりした髪形になる。

　初めて体験した神戸市垂水区の女性（６８）は「顔の周りに水分が飛び散らないので快適。以前に胸椎を骨折し、洗髪台に頭を載せるのが怖いこともあったが、これなら安心です」と笑顔を見せた。

　洗髪台方式は、首をけがした人や、あおむけの姿勢を強いられる妊婦は抵抗感が大きいという。洗髪を避けるため、美容室に行かない人もいるほどだ。また、１人当たりの使用水量は流水の１０リットル以上に対し、スチームは０・５リットル以下に抑えられる利点もある。

　ＣＡＲＥでは追加料金なしで流水かスチームかを選べ、導入後の３カ月で約４０人がスチームを選んだ。松岡大介社長（５４）は「できることなら、あおむけの洗髪はしたくないという潜在需要の大きさを感じる。より効果的な洗髪の方法を研究し、機器を利用する施設と共有したい」とする。

　専用スチーマーを開発したのは機械メーカーのティ・アイ・プロス（京都府宇治市）。この方式でのシャンプーとトリートメントは、鳴尾化学研究所（西宮市）が製造する。価格は機器本体が３０万円から、シャンプーが２００ミリリットル入りで２８００円。

　ティ社が２０１８年から医療・介護施設向けに販売するが、新型コロナウイルス禍が重なり、導入は国内２０～３０件にとどまる。同社は近く、スチーマー用のボディーソープを発売する。営業担当の杉本崇志さん（４６）は「寝たきりの高齢者の入浴や洗髪には複数のスタッフが必要だが、こちらは１人で対応できる。介護現場の人手不足にも貢献できるはず」と意気込む。

■製造ノウハウ蓄積「さまざまな要望に応えたい」

　シャンプーを開発した鳴尾化学研究所は、西宮・浜甲子園の住宅地に本社と工場を置く。社員８人の小所帯ながら、業界では知る人ぞ知る優良企業。美容室向け専業でオリジナル商品の開発・製造を請け負い、年商は１０億円を超える。

　同社は中村豊樹社長（４４）の祖父、良蔵さんが戦後、鳴尾商店街の美容室からパーマ液の製造を依頼されて創業。早くに開発したアミノ酸入りシャンプーが評判を呼んだ。

　長く理美容室向けに自社商品を販売してきたが、２００６年に入社した中村さんは「お客さんは本当に満足しているのか」と疑問を感じたという。香りや洗い心地など理美容室の要望を満たそうと、共同で新商品を開発する手法に徐々にシフト。１０年前は自社製品が売上高の９５％に上ったが、現在は５％程度と大幅にビジネスモデルを転換した。

　評判は広がり、大手ドラッグストアや東京の有名サロンなど２００社以上と契約する。売上高は３、４年で２倍超に伸びた。中村さんは「蓄積した製造ノウハウでさまざまな要望に応えたい」と話す。

　今回のスチーム専用シャンプーも、半年間の試行錯誤の末に完成した。流水を使わない方法では、アルコール入りの無水シャンプーがあるが、汚れと共に頭皮の脂質も取れてしまう。

　研究開発を担当する山田優さん（３９）は「植物性の原料を選び、泡立つシャンプーで汚れをしっかり取りたいという要望に応えた」と話した。（高見雄樹）