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旧優生保護法を巡る訴訟の大阪高裁判決を受け、記者会見する原告の男性(左)と女性=22日午後、大阪市
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旧優生保護法を巡る訴訟の大阪高裁判決を受け、記者会見する原告の男性(左)と女性=22日午後、大阪市

 ようやく「時の壁」が破れた。旧優生保護法の下、不妊手術を強いられた障害のある人たちが国を訴えた裁判で、大阪高裁は22日、初めて賠償を命じた。地裁では旧法を違憲としながら、年月の経過を理由に賠償は不要とする判決が続いた。「うれしい」「怒りは消えない」。耳が不自由な原告夫婦は、喜びと無念を手話で語った。訴訟を続ける高齢の仲間は「勇気づけられた」と涙ぐみ、国の上告断念を願った。

 どうしたらいいか、誰に言ったらいいか分からなかった。その過去を裁判所に理解してほしい-。ゆがんだ優生思想に基づく不妊手術から48年。子を持つ夢を奪われた70代女性と80代夫の切実な訴えがやっと届いた。22日の大阪高裁判決は「手術から20年が過ぎて賠償請求権は消滅」と判断した一審判決を覆した。夫は「長かった。このような判決が得られてうれしい」喜ぶ。一方、女性は「怒り、悲しみは続いている」と手話で吐露した。

 生まれつき耳が聞こえない女性は、同じく聴力のない夫と1970年に恋愛結婚した。妊娠し74年、帝王切開で出産することに。この際、知らないうちに不妊手術をされていた。子どもは死亡したと伝えられ、顔を見ることはかなわなかった。

 「耳が聞こえないだけで差別される時代。産めないと知っても、怖くて言えなかった。当時は手話通訳もいない。思いを伝えるすべがなかった」。裁判官や国側の代理人に訴える際、2人は手の動きに一層の力を込め、指先が震えた。

 大阪高裁判決は非人道的で差別的な法律が社会的、心理的な影響を与え、障害者の偏見を正当化したと非難した。事例として70年ごろの高校教科書の「劣悪な遺伝を除去し、健全な社会を築くために優生保護法があり」との記述を挙げた。

 2人には夢があった。女性は子どもと買い物に行き、たくさんの話をしたかった。習い事をさせ、一緒に笑って助け合って…。夫は「子が結婚して孫を見ることができたかな」。思い描いていた家族の姿。「町でよその家の子どもを見ると、うらやましい。涙が出る」

 提訴から3年が過ぎ、夫は立っているのもしんどくなった。体力の限界を感じてきたが、謝罪しない国への怒りは収まらず、裁判を諦めようとは全く思わなかった。

 女性はこの日の記者会見で強調した。「国の法律で産めない体にされた。悔しくてならない。どんな人でも同じように子どもを産める社会になってほしい」

【除斥期間】 法律上の権利を使わないまま過ぎると自動消滅する期間。民法724条は不法行為から20年間で損害賠償請求権が消滅すると定める。不法行為を巡る法律関係を確定させる目的。被害者らが不法行為や損害を認識していなくても進行し、薬害や公害の訴訟などで争点となってきた。2020年4月施行の改正民法で、進行が止まることもある時効に統一されたが、改正前の事案には適用されない。(共同)

■「大きな前進」「希望が見える判決」 控訴中の兵庫県内原告

 旧優生保護法下で行われた障害者らへの強制不妊手術を巡り、国に大阪の原告への賠償を命じた22日の大阪高裁判決。一審神戸地裁で敗訴し、同じ大阪高裁での控訴審を控える兵庫県内の原告らは「大きな前進」「希望が見える判決」と仲間の勝訴を歓迎した。

 兵庫の原告の一人、鈴木由美さん(66)は「『勝った』ということが一歩大きな前進であり、うれしく思う」と弁護団を通じてコメント。今後の自身の控訴審を念頭に「この判決で終わりではなく、裁判所に主張すべきことを最後まで伝えきるようにしなければいけない」とした。

 昨年8月3日の一審神戸地裁判決は、旧法を違憲と断じ、旧法の改廃を怠った国会の責任も初めて認めた上で、賠償請求権は「除斥期間」の経過を理由に消滅したと判断。だが、この日の大阪高裁判決は除斥期間の適用を退けており、兵庫をはじめ、全国の原告や支援者らの期待は高まる。

 兵庫の原告弁護団は高裁判決を歓迎する声明で、国に対し、「優生思想および障害者に対する偏見差別の解消、そして一時金支給法の改正を含め、優生保護法問題の全面解決に向け、直ちに全国の原告との協議を開始すべき」と注文した。(那谷享平)

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