ゆるい、和む、どんなオシャレ空間も破壊-。独自の存在感で世の老若男女を魅了してきた手芸作品「おかんアート」に、新たなスポットが当たっている。聖地・神戸市での活動に文化芸術界から熱い視線が注がれ、現在、東京都内で初の展覧会「ニッポン国おかんアート村」が開催中だ。巨匠らの自信作約千点が並び、最新の潮流を体感できる。
おかんアートとは、母(世代)の作る手芸品の総称。毛糸、カラー軍手、牛乳パック、チラシ、タオル、ロープ、ビーズ、タバコの空き箱、ヤで始まる某乳酸菌飲料の容器、5円玉などなど、材料は人それぞれだ。せっせと作って自宅や店舗に飾ったり、知人や公共施設に配ったり。父(世代)による「おとんアート」もあるが、確認された生息数は多くない。
展覧会場には、丹精込めた作品がびっしりと並ぶ「おかんアートタワー」がそびえ、子どもたちが大興奮。今年の干支にちなみ、黄色と黒のロープで編み上げたトラや、折り紙のツル、手のひらサイズの陶の子犬などが展示され、多数の写真が作り手のあふれる愛と熱量を伝える。
◇ ◇
本展は、サブカルチャーに精通する編集者、写真家の都築響一さんが企画。神戸市兵庫区、長田区を中心に活動し、この分野の老舗として知られる「下町レトロに首っ丈の会」に声が掛かった。出展作の大半は同市や姫路市などの作者十数人が手掛けたもので、都築さんイチオシの作品群と競演している。
同会は2005年設立。行く先々でおかんアートに遭遇し、気付けばのめり込んでいたという共同代表の山下香さん(47)と伊藤由紀さん(52)らが、精力的な調査研究と発信を続ける。20年からは山下さんが教える甲南女子大学(神戸市東灘区)の学生によるフィールドワークも始まり、高度な技と昭和の薫りが若い世代の心を捉えて離さない。
毎年、市内で展覧会を続けてきたが、今回、ついに首都に進出。山下さんは「忙しい日々の中で時間を生み出し、作ることをあきらめない。その姿にぜひ触れてほしい」と語る。
一方、都築さんはこう評する。「単一の価値観に収まりきらないことが現代美術の特質であるならば、おかんアートはもっとも無害に見えて、もっとも危険なアートフォームなのかもしれない」
同展は東京都渋谷公園通りギャラリーで4月10日まで。月曜(3月21日を除く)と3月22日休館。入場無料。同ギャラリーTEL03・5422・3151
(新開真理)
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