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チェーンソーで間伐作業をする養父市の地域おこし協力隊隊員。木々の間から陽光が降り注ぐ=養父市八鹿町国木(撮影・辰巳直之)
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チェーンソーで間伐作業をする養父市の地域おこし協力隊隊員。木々の間から陽光が降り注ぐ=養父市八鹿町国木(撮影・辰巳直之)
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神戸大大学院法学研究科島村健教授
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養父市 森林保全し、8千トン分売り出し

 すっと空に伸びた高さ15メートル、太さ25センチほどのヒノキが、バサバサと大きな音を立てて倒れた。4月上旬、兵庫県養父市八鹿町国木(くぬぎ)の市有林で、間伐や作業道の整備が進められていた。

 県内最高峰の氷ノ山(ひょうのせん)がそびえ、森林が市内の8割以上を占める同市。保全作業に従事する地域おこし協力隊員高橋安奈さん(29)は「森林は手を加えると、光や風が抜けて気持ちの良い空間に変わる。脱炭素につながると思うと、やりがいを感じる」と汗を拭った。

 森林は光合成によって二酸化炭素(CO2)を吸収する。同市は2012年度から、森林を保全して確保したCO2吸収量を企業などに販売している。購入した企業は環境への貢献をPRできる。温室効果ガス排出量を削減できない分を、別の場所での削減活動に投資するなどして埋め合わせる「カーボンオフセット」だ。

 同市では市有林など278ヘクタールが吸収するCO2として計8007トン分が環境省に認証されている。市有林の大半は地元の森林組合に管理を委託しており、吸収量を販売した収益を管理費用などに充てている。

 購入者の顔ぶれはさまざまだ。姫路市で認定こども園などを運営する「もく保育園」は36トンを購入した。「気候変動で、子どもたちの未来が心配。吸収量の購入を通じて、子どもや保護者にグリーンカーボンの必要性を伝えたい」と同園。園では、残った給食を分解して水に変える処理機などを導入しているという。

 企業も多い。20年までの9年間で、製造、建設、旅館業など延べ59社が計2562トンを購入した。川重商事(神戸市中央区)は、2年で計425トン分を購入。同社担当者は「(脱炭素への)世界的な意識の高まりを受け、実現可能な取り組みの一つとして考えた」と話す。

 企業の動きが目に見えて加速したのが、20年10月、菅義偉前首相が50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を宣言した直後だ。21年度は延べ33社が4938トンを購入。この1年だけで、9年間の2倍の吸収量が売れたことになる。

 「あと500トン分しか吸収量の『在庫』がない。この流れを逃さぬよう、早く増やさなければ」と市の担当者。新たな吸収量を生み出す森林の選定を急ぐ。

 海草や海藻のブルーカーボンでも、CO2吸収量を企業などに販売する取引の実証実験が始まった。昨年12月、関西で初めて、地域でアマモを育てる兵庫運河の取り組みで1・1トン分が国土交通省の認可機関「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)」に認証された。

 買い手を公募し、3月中旬に地元企業など計15社の購入が決まった。同様の制度は横浜市や福岡市も独自に手掛け、ブルーカーボンの普及に一役買っている。

 JBE理事の信時正人・神戸大客員教授は「藻場を維持するには、継続的な活動が必要だ。少額でもお金が回るようになれば地域の活動の支えになる」と強調する。(堀内達成、初鹿野俊)

販売登録件数5年で1・5倍に 国制度に897件、ニーズ高まり供給不足も

 森林保全や省エネ設備導入など、二酸化炭素(CO2)の排出削減量・吸収量をクレジットとして販売する制度は、各地で活用されつつある。政府が認証する「J-クレジット制度」では、登録プロジェクト件数が2021年度は897件(3月10日時点)に上り、5年前の1.5倍に増えた。

 政府の50年カーボンニュートラル宣言を受け、企業も同様の目標を掲げる。自社の努力で削減しきれない分は、クレジットへの投資などで相殺(オフセット)せざるを得ず、企業ニーズが高まっている。養父市のように、需要に対し、供給が不足気味の取り組みもある。

 ただ、森林保全や植林など自然吸収系のクレジット化は課題も多い。カーボンオフセット市場で先行する海外では、クレジットが販売された植林の約4割が管理不足で枯死するなど、クレジットが実際の吸収量と一致しない「空手形」となる事例が起きている。

 人工林は成熟とともにCO2吸収量が減っていく。さらに、吸収量は気候などによっても左右され、国内の専門家からは「発行された排出量を森林が吸収し続ける保証はなく、不確実な手法だ」との批判が上がる。

 経済産業省はJ-クレジット制度などを活用し、23年度にCO2排出量を売買する新たな取引市場を設ける方針を掲げる。ただ、企業の自主的な取り組みになるとみられ、実効性は不透明だ。(石沢菜々子)

「石炭火力」新設国益損なう 神戸大大学院法学研究科 島村健教授

 世界の脱炭素化への流れが強まる中、国内では神戸市などで石炭火力発電所の新設が続く。一方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で化石燃料の価格が高騰し、エネルギー市場に混乱が起きている。日本が置かれている状況を、神戸大大学院法学研究科の島村健教授(環境法)に聞いた。(聞き手・堀内達成、撮影・坂井萌香)

 -神戸製鋼所の石炭火力発電所を巡り、住民らが環境影響評価を認めた国の確定通知取り消しを求めた行政訴訟で4月、大阪高裁の判決が出た。

 「発電所周辺の住民らに、温暖化による損害を裁判で争う資格『原告適格』が認められるかが注目点でしたが、二審でも認められませんでした。ドイツやオランダの裁判所は、温暖化の被害を人権侵害として捉えています。今回の判決は、温暖化による被害を受けないという利益は、個人の利益とはいえないとしており、違いが際立ちました」

 -脱石炭火力が世界の潮流だが、日本では発電所新設が続く。

 「先進国では日本だけで、異常な状態です。温暖化の観点で、建設に歯止めをかける枠組みがないことも一因です。政府の温室効果ガス削減目標の達成が危ぶまれます」

 -この状態が続くとどうなるのか。

 「日本の製造業が大きなリスクを負い、国益にとっても深刻です。化石燃料由来の電気が減らないと、米アップルやマイクロソフトといった世界的な企業のバリューチェーン(分業体制)から、日本企業が除外されてしまう。環境面だけでなく、日本の製造業を守る意味でも、電気の脱炭素化が欠かせません。カーボンニュートラルを宣言している日本企業の目標達成のためにもやはり、電力の脱炭素化は不可欠です」

 -ウクライナ危機で原油や液化天然ガス(LNG)、石炭が高騰し電気代がさらに上がる可能性もある。

 「ロシアのような権威主義国に資源を依存していると、こうした事態が起こります。洋上風力や太陽光などの再生エネルギー割合を増やし、化石燃料依存から脱却することが日本の安全保障につながります」

【しまむら・たけし】1973年、埼玉県出身。東京大大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。2012年から現職。

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