神出病院（神戸市西区）の看護師らによる入院患者虐待事件で、同病院が設置した第三者委員会は２日、調査報告書を公表し、２００９年以降で虐待行為は少なくとも８４件に上り、看護師や看護助手ら２７人の関与を認定した。籔本雅巳前理事長らの過度な利益追求が「患者の人権を軽視する風土を形成した」と結論付けた。

　事件では２０年３月、看護師ら６人が入院患者への準強制わいせつなどの容疑で逮捕された。同委員会は２１年９月に設置され、１００人を超える関係者にヒアリングをした。報告書などによると、有罪判決を受けた６人は３６件の虐待行為に及んだが、同委員会は６人の上司だった４０代の男性看護師が「中心人物」だったとした。院内ではガムテープで病室を閉じる隔離行為や、精神保健指定医の指示がない身体拘束なども常態化していたとした。

　報告書は、これらの原因が前理事長らの経営体制にあると指摘した。収益確保のため、他院では困難な患者の受け入れを推奨し、退院も抑制。患者の病態が多様化し、看護の負担も増えたという。経費削減で浴室給湯などの必要な設備改修が行われず、元院長による恣意的な人事異動なども不満をもたらしたとする。

　さらに、事件が起きた病棟フロアでは、他病棟より看護負担が重い▽上司が率先して虐待行為をする▽ゆがんだ仲間意識が生まれやすかった－などの事情が作用したと分析した。

　第三者委委員長の藤原正広弁護士は会見で、病院の運営組織に籔本前理事長の影響が残っているとして、「改革を進めるには外部の人間が関心を持ち続けることが必要」と報告書公開の意義を強調した。

　籔本前理事長は２１年、日本大学医学部付属病院の建て替え工事や医療機器納入などを巡って大学資金が流出した背任事件で逮捕、起訴された。（篠原拓真）