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コロナ禍に入ってから、寒山拾得を描いたシリーズが並ぶ。横尾さんが提案した金色の壁紙に映える=横尾忠則現代美術館(撮影・坂井萌香)
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コロナ禍に入ってから、寒山拾得を描いたシリーズが並ぶ。横尾さんが提案した金色の壁紙に映える=横尾忠則現代美術館(撮影・坂井萌香)
2021年に描かれた「二刀流再び」(右)などの展示風景=横尾忠則現代美術館(撮影・坂井萌香)
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2021年に描かれた「二刀流再び」(右)などの展示風景=横尾忠則現代美術館(撮影・坂井萌香)

 御年85歳の新境地だ。兵庫県西脇市出身の美術家、横尾忠則さんは「絵を描くのに飽きた」と言いつつ、コロナ禍でアトリエにこもり、創作の勢いが加速した。神戸市灘区の横尾忠則現代美術館での展覧会は、新作を関西では初公開している。長年、絵画の可能性を追い求めた試みを礎に、身体の衰えさえも味方に変えた。開拓した画風を「朦朧(もうろう)体」と呼ぶ。軽やかで、自由奔放に。画面からエネルギーがほとばしる。(小林伸哉)

 「過去への前進」を意味する展覧会「Forward to the Past 横尾忠則 寒山拾得(かんざんじっとく)への道」(神戸新聞社など主催)では、コロナ禍の2020年以降に描かれた31点を中心に72点を飾る。

 新作のモチーフは、中国の唐時代の僧侶と伝わる寒山と拾得だ。乱れた髪をなびかせ、くたびれた衣をまとって、けらけらと笑う。文殊・普賢菩薩(ふげんぼさつ)の化身とも言われ、与謝蕪村ら数々の画人が題材としてきた。

 無心。世俗にとらわれず、わが道を行く。彼らの超然と生きる姿に、横尾さんは美術家としての理想を重ねる。2019年には「本格派の面倒臭い画家になるには寒山拾得みたいにならんとあかんのです」とツイッターでつづった。

 同年、江戸時代の絵師、曾我蕭白(しょうはく)による寒山拾得の図をオマージュして作品化。国立新美術館での「古典×現代2020」展で披露するなどし、独自の多彩な表現を編み出してきた。

 横尾流の大胆でユーモラスな解釈に目を見張る。詩作に没頭したという寒山が、手にするのは巻物ではなく、トイレットペーパーだ。拾得が持つはずのほうきは、掃除機に変えた。眺めるうち、一緒に踊り出したくなってくる。

 「朦朧体」は美術史上、明治期に横山大観らが生んだ日本画の革新的技法を指す。輪郭線ではなく色面とグラデーションを生かし、繊細な空気感まで表す。

 横尾さんの「朦朧体」は、15年から続く難聴の症状から生まれた。視界もぼやけ、右腕は腱鞘(けんしょう)炎で思うように動かない。輪郭の線は揺らぎ、時に力強くうねって、モチーフは周囲と溶け合う。その筆致は自然体で気ままな心境を思わせ、蛍光色のようなカラフルな世界も魅力的だ。

     ◇

 2階の展示室には、映画「荒野の用心棒」の挿入歌が流れる。「さすらいの口笛」(エンニオ・モリコーネ作曲)で、横尾さんがリクエストして実現した。

 ほの暗い空間に入ると、大きな耳や竜巻を19年に描いた「突発性難聴になった日」が掛かり、その衝撃や認識の変容が伝わる。幼少期の自画像やふるさと西脇の風景、敬愛する作家や作品も描かれ、横尾さんの精神の旅路を追体験できるような展示だ。

 昨年描いた「二刀流再び」は、寒山と拾得が戦う姿を奔放な筆遣いで描いた。5歳のころに絵本を模写して自ら最高傑作とする絵「武蔵と小次郎(模写)」と同じ構図で、2枚を見比べるのも楽しい。

 「過去の積み重ねが、最新のスタイルに結実している」と同館の小野尚子学芸員。3階で1980年代の作品群を飾る。身体性の重視、明るい色と荒々しい筆致、イメージの重なり、コラージュ、波紋…。今につながる挑戦の跡を見せる。

 横尾さんは本展の開会式に文書でメッセージを寄せた。「今日の寒山拾得が私の作品の到達点(ゴール)ではないです」と。

 変わり続けることこそ、横尾さんの芸術の神髄だ。これまでも、これからも。

     ◇

 7月18日まで。月曜休館(祝日なら開館して翌平日に休館)。一般700円ほか。横尾忠則現代美術館TEL078・855・5607

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