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同性婚は「保険の対象外」 制度の壁、支援名ばかり〈悪意はなくても~尼崎市アウティング問題から〉(4)

2022/05/27 19:30

 「同性のお客さまは、対象外です。申し訳ありません」。電話口の女性オペレーターから繰り返され、兵庫県尼崎市でパートナーシップを宣誓したゲイの慶太さん(36)は耳を疑った。

 1年前に自動車保険に加入し、配偶者が運転しても補償される「特約」を付けて契約した。その保険会社は性的マイノリティーへの全面支援をうたっているだけに、「配偶者」には当然、一緒に暮らす男性パートナーが含まれると思い込んでいた。

 だが更新時に何げなく確認して「対象外」と告げられる。もし事故を起こしていたらと思うと血の気が引いた。「これだけ支援をPRしておいて…」。慶太さんは無念の色を隠せない。

 性的マイノリティーへの認知度が高まる中、全国で婚姻に代わるパートナーシップ制度を導入する自治体が増えている。ただ、法的拘束力はない。民間の保険サービスは公的保険を補う形でできているため、法律上の配偶者と同じ扱いにするには、企業が独自で基準をつくる必要がある。

 同社グループは業界の先陣を切って7年前から研究を進め、生命保険では対応したが、自動車保険は準備段階だという。担当者は悩ましげに言った。

 「今は過渡期なんです」

   ◇   ◇

 尼崎市はアウティング(暴露)問題の検証報告書に、こんな文言を記した。

 「行政には同性愛者の権利擁護が求められる。無関心や無知は許されない」

 1990年に起きた「府中青年の家事件」の判決文の引用だ。東京都が同性愛者の宿泊を断ったことを「不当な差別」と認め、行政に考え方の改善を求めた。90年といえば、世界保健機関がようやく、同性愛を精神疾患に分類してきた誤認を修正した年になる。

 それから30年超。尼崎市は検証報告に、性的マイノリティーの歴史と「差別をなくしていくための責務」を改めて明記したが、国は同性間の婚姻(同性婚)を認めていない現実がある。

   ◇   ◇

 「同性婚を認めないのは、憲法が保障する法の下の平等に反する」。同性カップルらが国の責任を問うた国賠訴訟で、札幌地裁は2021年、そう判決した。東京や大阪など全国5カ所でも提訴され、今年6月22日には大阪地裁で全国2例目の判決が予定される。

 「国が認めなければ、マイノリティーを巡るどんな自治体の施策ができても人権を保障するには不十分で、尊厳は回復されない」。大阪の裁判で代理人を務める大畑泰次郎弁護士は指摘し、さらに強調した。

 「社会的な承認がないと、いつまでも偏見や差別はなくならない」

 かつて同性カップルの入居を断った西宮市内の賃貸住宅オーナーが言い切った。「トラブルが起きたら困る。よく分からない、ややこしい人には住んでほしくない」。18年の民間調査で、同性カップルの入居に抵抗する賃貸不動産オーナーは3割に迫っている。(大田将之、村上貴浩、山岸洋介)

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