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パソコンにアライのワッペンを貼るP&Gジャパンの社員。デザインに「暗闇の向こうにある明かりになれれば」との思いが込められる=P&Gジャパン本社
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パソコンにアライのワッペンを貼るP&Gジャパンの社員。デザインに「暗闇の向こうにある明かりになれれば」との思いが込められる=P&Gジャパン本社

 虹色のワッペンを着けるのは、性的マイノリティーの味方「アライ」を表明している証しだ。日用品大手P&Gジャパン(神戸市中央区)で、その社員数は約200人になる。

 「優しさとかではなく、会社に必要なものなんです」。全国に先駆けてアライ育成を担うシニアディレクター住友聡子さんが話す。

 150の国・地域に社員を抱え、顧客の人種も異なるグローバル企業にあって、リーダーには多様性の尊重が欠かせない。1990年代から女性活躍を推し進め、男女の枠組みを話し合う中で、性の自認や指向に目を向けるようになった。

 全国の市民5千人を対象に調査をすると、10人に1人が性的マイノリティーを自覚し、その4割超が「自分らしく生きられない」と感じていた。最も生きづらい場所の最多は「職場」。そこで2021年、独自開発した「アライ育成研修」の無償提供を始め、自治体や企業から受講希望が相次いでいる。

 「カミングアウトは本人の自由だが『打ち明けられない環境』は良くない。傷つけられたり、無理に隠したりしていては、そもそも仕事に集中できるわけがない」と住友さんは語る。

 そのため、嫌がらせを止めたり、他者に理解を広めたりする立場を表明するのがアライだ。研修では事例をもとに講師と参加者が話し合い、気付きを増やす。

    ◇   ◇

 兵庫県尼崎市のアウティング(暴露)問題は、バイセクシュアルの男性職員が傷つけられる場に複数の職員が居合わせながら、誰も止められなかった事実を浮き彫りにした。当事者を孤立させ、結果的に幹部の「悪意のない差別」を増長させた。

 教訓として、市はアライの職員を増やす方針を打ち出しつつ、職員側に生じる不安も懸念する。偏見を是正しようとして失言をしないか、逆に誰かを傷つけないか…。検証報告書は表明への考え方をこう記した。

 「他者も自分も尊重するために何ができるかを考えること」

 尼崎市でコンサルタント会社を営む男性社長(42)はかつて、ゲイを公言する部下に宴会中、「あの男が好きなんやろ」とちゃかしたことを悔いていた。

 その場にカミングアウトしていない他の社員がいたかもしれないと今は思える。「『絶対に本音を言えない会社』と思わせただろうな…」と、申し訳ない気持ちになる。

 一方で、兵庫県内に住むゲイの雄太さん(37)は、今も職場で異性愛者を装う。宴会になると恋愛話に備え想定問答を考えておく。結婚を勧められるのが苦しくて「早く終わってくれ」と祈りながら、ふと思う。

 「もし、演技に無駄なパワーを使わず、自分の『素』を出せたら、どんな日常が広がっているのだろう」

    ◇   ◇

 ふとした時にさりげなく話題を変える、話を止める…。アライの人々が言った。「困っていれば一緒に解決したい人がいると知ってほしい。職場も、社会も良くなっていくのではないか」(広畑千春、山岸洋介)

【バックナンバー】
(1)性告白を否定「幹部辞めさせろ」全国から批判
(2)「手をつなげるのは夜だけ」…社会の拒絶に拭えぬ不安
(3)警察沙汰になりかねない…できるだけ多目的トイレへ
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