八月は、血の味がする-。作家・早見和真さんの新作長編「八月の母」は、愛媛県で実際に起きた少女暴行殺人事件を下敷きにした衝撃作。著者の最高傑作との呼び声も高い。一方で早見さんといえば、本紙土曜日に連載中の童話「かなしきデブ猫ちゃん」で子どもたちにも大人気だ。同じ愛媛発の物語ながら全く味わいの違う2作に、どんな思いを込めたのか。(平松正子)
-2014年8月、愛媛県伊予市の団地で、17歳の少女が激しい暴行を受けて命を落とした。加害者は住人の女(当時36)と3人の子ども、その友人ら。「八月の母」は陰惨な事件の過程を追いつつ、旧弊な家族関係や地域社会のあり方を鋭く問う。
「事件を知ったのは、愛媛に移り住んで間もない2016年春。新聞や週刊誌を読みあさったが、当時は小説として世に出す意味を感じなかった。ただ凄惨で救いのない事件だったから。しかし3年後に資料を見直すと、新しい読み味が出てきた。主犯とされたこの女もまた、ゆがんだ『母性』に翻弄されたんじゃないか、と」
「その3年間に愛媛新聞で『デブ猫ちゃん』を始められたことも大きい。猫のマルの物語では子どもたちに向け、できる限り愛媛の良い面を伝えようとした。でも、実際に住んで見えてきたのは美しい景色だけじゃない。愛媛に住むのは6年だけと決めていたが、きれいごとだけを残して去ることはできなかった」
-作中で事件の核となる越智エリカは、少女時代から伊予を出たいと切望しており、その姿は広い世界を見ようと旅に出るマルにも重なる。だが、エリカに旅立ちは訪れない。彼女の心を支配し、家に縛り付けるのは母の美智子だった。
「『母性』という言葉に対し、誰もが無批判過ぎる。子どもを産んだ女性には自然に芽生えるものだと、男中心の社会が勝手にお仕着せてきただけ。親や子ども、家族との関係に苦しみしかないなら、執着せず逃げ出せばいい。因習の中で思考停止している人々に、自分のために生きてほしいと伝えたい」
-小説はエリカや美智子、被害者の紘子、周囲の男ら、多くの人物の視点から語り進められる。同じ事件も別人の目を通すと、全く様相が異なってくる。
「従来、執筆中は自分の後頭部を見るよう意識してきた。書いている自分の後ろ姿を見ていれば、物語に入り込み過ぎず、俯瞰して語ることができるから。僕自身の子どもが娘だったことも、母娘の複雑な関係を適度な距離感で描くのに役立った。そうした積み重ねが『八月の母』に結実したんじゃないかな」
-「八月の母」は、ドラマ化もされたベストセラー「イノセント・デイズ」を超す傑作といわれる。
「『イノセント-』は、死ぬことを命懸けで選んだ女の物語なので、暗く後味が悪いとの批判も受けた。『八月の母』では家族の縁を切る、親子の絆を断つことに希望を託した。社会通念に逆らう構造は同じだが、今回はより明確に書けた手応えがある。小説家としてまた一つの武器を手に入れられたかもしれない」
(「八月の母」はKADOKAWA刊、1980円)
【はやみ・かずまさ】1977年神奈川県生まれ。2008年「ひゃくはち」で作家デビュー。15年「イノセント・デイズ」で日本推理作家協会賞、20年「ザ・ロイヤルファミリー」で山本周五郎賞ほか著書多数。
【特集ページ】かなしきデブ猫ちゃん

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