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保田隆明・慶応大総合政策学部教授
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保田隆明・慶応大総合政策学部教授
橋本恭之・関西大経済学部教授
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橋本恭之・関西大経済学部教授

 地域活性化を目指すふるさと納税制度を巡っては、自治体間の寄付獲得競争が過熱し、返礼品のネットショッピング化や転売が寄付の趣旨にそぐわないとも指摘される。兵庫県内では、全国上位の寄付受け入れ額だった洲本市が、返礼品の調達基準違反で除外処分を受けた。今後の制度運営はどうあるべきか。ふるさと納税に詳しい大学教授2人に考えを聞いた。(吉田みなみ)

■地方に関心、意義ある制度

 洲本市の問題は、3年前に返礼品の調達比率のルールができ、国内で総意が形成された中で発覚した。駄目なことだと分かってやっていた確信犯だと思える。こうした違反を防ぐには、2年の除外期間は短い。寄付金返納などのペナルティーも必要ではないか。

 制度そのものについては、肯定の立場。都市部の人が地方に関心を持ち、補助金以外でお金が向かう流れができた。これまでになかった効果だ。地方にある下請けの下請けのような零細企業から、産品を手に入れる機会ができたことも大きい。2020年度のふるさと納税の寄付総額は約6700億円。国から地方への交付金約17兆円と比べると小さいが、地方の足腰は強くなっている。

 課題を挙げるなら、返礼品の希望が特定の事業者に集中するのは好ましくない。1事業者当たりの受注上限があってもいいのではないか。また、都市部の税金が地方へ流失する問題を東京23区が訴え続け、地方にもそういった都市がある。基本的に人口の多い地域が負ける制度ではあるが、自治体の規模に見合った寄付受け入れ額の上限を設ければ影響を小さくできる。

 10年以上続き、存在意義がある制度だ。返礼品の出品事業者は、地方市場を育成する足がかりとしてうまく利用し、より大きな市場への参入を目指すべきだ。

【ほうだ・たかあき】1974年生まれ。外資系証券会社、神戸大大学院経営学研究科教授を経て現職。共著に「ふるさと納税の理論と実践」。神戸市クラウドファンディング型ふるさと納税補助制度審査会審査員を務めた。

■寄付イコールお得、おかしい

 ふるさと納税制度は、もともと自治体を応援する意味合いで、返礼品で寄付を促してはならないとされていた。違反した洲本市は、金集めにしか関心がないと思えた。

 自治体は寄付を何に使ったのか、詳細に説明する必要がある。その意識は洲本市に限らず希薄になっている。ホームページも記載は不十分。何に使ったか、履歴を全て公開すべきだ。

 制度をやめるわけにはいかないのだろうが、問題がある。明らかに高所得者に有利。寄付額のうち自己負担2千円を超えた分が、(税金から差し引かれて)ほぼ全額戻ってくる。さらに返礼品があるから、自己負担よりも受け取る「お得感」の方が大きいというゆがみが生じている。

 寄付すればするほど、寄付者が得をする仕組みだ。本来、寄付はある程度の自己犠牲や自己負担で成り立つもの。「寄付イコールお得」はおかしい。

 人口が多い東京など都市部の自治体は、得られるはずだった税金が入らない分が、寄付の受け入れを上回って「赤字」になる。ふるさと納税寄付の規模は大きくなり過ぎた。税制措置の見直しが必要だ。税の優遇を他の寄付制度とそろえれば、ふるさと納税で寄付するメリットがほとんどなくなり、寄付者は減るだろう。段階的に見直し、本来の寄付に戻す必要がある。

【はしもと・きょうじ】1960年生まれ。主な論文に「ふるさと納税制度と国・地方の財政」「地域間の税収格差について」。大阪商工会議所税制幹事会委員、財務省総合政策研究所特別研究官を務めた。

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