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隧道工事をした土木会社のデザインを取り入れたオリジナルの法被を着る「湊川隧道部」のメンバー=神戸市兵庫区
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隧道工事をした土木会社のデザインを取り入れたオリジナルの法被を着る「湊川隧道部」のメンバー=神戸市兵庫区
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湊川の付け替えと隧道の歴史をたどる冊子
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湊川の付け替えと隧道の歴史をたどる冊子
佐々木良作さん
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佐々木良作さん

 神戸市兵庫区にある日本初の河川トンネル「湊川隧道(ずいどう)」。神戸が誇る近代土木遺産だが、知名度はそれほど高くない。この魅力的なトンネルの歴史と今をもっと知ってもらおうと、利活用を探る動きが広がっている。(伊藤颯真)

 兵庫県の土木技術職員として36年働き、現在は「湊川隧道保存友の会」副会長の佐々木良作さん(74)=神戸市西区=は、湊川の付け替えと湊川隧道ができた経緯を当時のニュースでたどる冊子「新聞記事にみる湊川の付替え-記事でわかる湊川新開地の夜明け前」を完成させた。

 佐々木さんは阪神・淡路大震災で被災した新湊川の改修責任者でもある。

 冊子は、明治期に発行された「神戸新聞」と「神戸又新日報」の100件以上の記事を中心に整理。背景などの解説も加え、まとめるのに3年かかった。

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 六甲山系に水源を持つ二つの川が合流し、神戸港に流れ込んでいた旧湊川は、合流点の下流で何度も洪水を起こしていた。六甲山の土砂を運んで川底が高くなる天井川だったからだ。

 被害を防ぐため、川の付け替え工事が始まったのは1897(明治30)年。4年後、苅藻(かるも)川に合流し長田港に流れる新湊川が完成した。

 その際、川の流れを西に迂回(うかい)させるため、会下山を掘ってできたのが湊川隧道だ。大型重機はなく、のみやつるはしなどで手掘りした。

 全長約600メートル。幅約7・3メートル、高さ約7・6メートル。当時、世界最大級の河川トンネルといわれた。側面はれんがをアーチ状に組み、川床に御影石を敷いた。いずれも手作業だった。

 川の付け替えに成功し、旧湊川の埋め立てが本格化したのは1903(同36)年ごろ。翌年には一部で造成地ができ、空き地に商売小屋が立ち並び始めた。

 1907(同40)年の記事には、相生座が開場し、片岡仁左衛門一座のこけら落とし公演に約2千人が訪れた-と記されている。映画館や芝居小屋が並び、大正初期には「東の浅草、西の新開地」と呼ばれる大歓楽街に成長した。

 一方で1906(同39)年の読者欄には、周辺で「昼間から大きな男3人組に懐中ものを取られそうになった」「ビヤホールでぼったくられた」などの記述もあり、当時の世相をうかがい知ることもできる。

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 佐々木さんは、行政資料だけでは分からない当時の様子を知ろうと、工事が始まる前後10年の新聞記事を丹念に探した。資金難によるトラブルや大物政治家の視察など、記事で初めて知ったこともあったという。

 「長年、湊川隧道に関わりながら釈然としなかった部分が分かってよかった。工事の3分の1が終わったから会下山に登ってお酒を飲んだという記事を見つけたときは土木屋としてうれしかった」と振り返る。

 県立兵庫津ミュージアムの田辺眞人・名誉館長(74)は「県史や市史などの公的な記録には記されていなかった当時の様子が分かる。神戸の歴史研究に大きな足がかりを残してくれた」と話す。

 ジュンク堂三宮店5F郷土史コーナーで販売。税込み1500円。千葉出版から直接購入もできる。同出版TEL078・531・4789

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■若手8人「隧道部」発足 映画上映、ツアー…身近な宝PR

 湊川隧道を守る活動は次世代にも引き継がれている。地域の若手ら8人が「湊川隧道部」を昨年、発足させた。グッズやパンフレットの製作、子ども向けイベントの企画などで、活用の可能性を探っている。

 隧道の保存活動は阪神・淡路大震災をきっかけに始まった。復旧工事を終えた1998年と99年に2度の浸水被害が起きたため、流水量の大きい新トンネルを隧道の北側に平行するようにして建設した。

 完成からちょうど100年目の2000年、河川トンネルとしての役目を終えた隧道をどうするか。隧道の価値を調査した「会下山トンネル保存検討委員会」が県に提言し、全面保存が決定。翌年、「湊川隧道保存友の会」が発足し、ミニコンサートや講演会を催してきた。

 こうした活動が実を結び、認知度は上がってきたが、河川管理施設のため使用制限があり、活用には課題もある。保存友の会のメンバーも高齢化しており、隧道部は同会と連携しながら新たな活用法を探る。

 昨年11月には、「部長、副部長と巡る湊川隧道ツアー」を実施。周辺の商店街や市場も巡り、川の付け替えで形成された街のグルメや歴史を紹介した。子ども向けに「トンネル映画上映会」もした。

 今年は近くのマルシン市場で「隧道カフェ」を開き、ホームページも7月をめどに開設する。

 隧道部の部長を務める前畑温子さん(38)は「身近な場所にこんなにすごいところがあると子どもにも知ってほしい。ゆくゆくは小学生が遠足で訪れるような場所になったらうれしい」と胸を膨らませた。

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