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人口が増えている丹波市の市街地。国道沿いを中心に田んぼが宅地に変わり、新しい集合住宅や戸建てが並ぶ=丹波市内
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人口が増えている丹波市の市街地。国道沿いを中心に田んぼが宅地に変わり、新しい集合住宅や戸建てが並ぶ=丹波市内
お絵描きを楽しむ1歳児たち。周辺で人口が増え、丹波篠山市立味間認定こども園は大勢の乳幼児で活気づく=丹波篠山市西吹
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お絵描きを楽しむ1歳児たち。周辺で人口が増え、丹波篠山市立味間認定こども園は大勢の乳幼児で活気づく=丹波篠山市西吹
JR篠山口駅前の「弁天自治会」にある壁の壊れた空き家。国道沿いで交通量も多い一等地だが、周辺の宅地開発からは取り残されている=丹波篠山市大沢
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JR篠山口駅前の「弁天自治会」にある壁の壊れた空き家。国道沿いで交通量も多い一等地だが、周辺の宅地開発からは取り残されている=丹波篠山市大沢

 人口減少が著しい兵庫県の丹波地域(丹波篠山市、丹波市)で、利便性の高い市街地への人口集中が加速している。国道など幹線道路沿いや駅前の限られた地区にスーパーや商業施設が林立。過疎が進むエリアから転入する住民が相次ぎ、ミニチュア版「都市一極集中」の様相だ。二極化は国や県単位だけでなく、大都市への人口流出にあえぐ2市でも進んでおり、専門家はこの現象をロシアの民芸品にちなみ「マトリョーシカ(入れ子構造)のよう」と表現する。(那谷享平)

■丹波市中心地で人口増、変わる景色

 栗や小豆の産地として知られる丹波市。人口は約6万人。全国の多くの中小規模自治体と同じく、人口は減り続けている。そんな同市で、かつて田んぼが目立っていたはずの国道沿いの風景が様変わりしている。

 「昔と全然違う」。今春の異動で18年ぶりに丹波地域に着任した県職員女性(42)は、街並みの変化に驚いた。

 職場に向かうため、北近畿豊岡自動車道氷上インターチェンジを降りて、国道176号を南下すると、丹波市氷上町から柏原町北部にかけての景色は一変。「見たことのない新しい集合住宅がこんなに」

 同市氷上町の不動産業男性(45)は「市の中心地で、手頃な中古の一戸建てが売りに出ない」と話す。氷上町本郷や柏原町南多田など、国道沿いのエリアに若い子育て世代が流入し、紹介できる物件が足りないほど。「需要に応えるため、新しい集合住宅や建て売りの一戸建てが増えている。ハウスメーカーからの売り込みも盛ん」

 それを裏付けるように、3月の柏原町柏原地点の公示地価が、24年ぶりに上昇した。評価を担当した不動産鑑定士は、大型商業施設の進出に加え、2019年の県立丹波医療センター開院も地価を押し上げた要因と分析。「氷上町を中心に国道沿い一帯の商業地に活気がある。値段が上がったのは、この商業地にほぼ隣接する地点」と解説する。

 氷上町本郷や同町稲継など地価上昇をけん引する商業地は「東小学校区」に位置する。丹波市の小学校区別人口統計によると、同校区の住民は4659人(22年3月時点)。この10年間、微増を続け、上向きなのは市内全22校区で唯一だ。

 その東小学校の全校児童は287人で、校区が広い崇広小学校に及ばないものの市内で2番目。同小が児童数で隣の「中央小学校」を抜いたことも、街並みの変化を象徴する。

 「全国、県、市とスケールは違っても、人口の動き方が同じ。まるで、マトリョーシカのような入れ子構造だ」。市の都市計画にも携わる関西学院大学建築学部の清水陽子教授は指摘する。

 清水教授は「ある程度の人口集中は、行政サービスのコストカットにつながる」とする。その上で「過疎化が進む地域で暮らし続けたい人もいる。地域の価値は利便性だけで推し量れるものではない。この現象の是非は簡単に判断できない」と話す。

■背景に「住み替え転居」

 市街地への人口流入の背景には、過疎地で暮らしてきた住民の「住み替え転居」がある。

 「年を取ってからのことや子どもたちの通学を考えて、ここで暮らすことにした」

 丹波市で整骨院を営む男性(41)は7年前、同市柏原町南多田に一戸建てを建てた。市内では人口が増えている数少ない地区の一つ。大型スーパーや県立丹波医療センターに近く、今も田んぼや駐車場が新たな住宅に姿を変えている。

 丹波市の中でも過疎化が著しい同市青垣町の出身。「地元のために仕事をしたいという思いが強かった」。大阪の大学や専門学校で整骨院経営に必要な資格を取得後、08年に実家に戻った。この年、集客が見込める同市柏原町の国道176号沿いに整骨院を開院した。実家から車で約20分かけて通い続けた。

 10年、大阪府で働いていた妻との結婚を機に、大阪へのアクセスが良い丹波篠山市に移った。新居を構えたのは市内で唯一、人口が増えている「味間小学校区」で、賃貸マンションを選んだ。ゆくゆくは丹波市で家を建てたいと考えていた。

 「家族も住環境に満足している。職場も、今の場所を選んで良かった」

 ただ、出身地の青垣のことを考えると、申し訳なさもある。「僕らの選択が、古里の過疎化や学校の統廃合につながっている面はありますから」。その分、市商工会青年部では青垣支部に所属し、地域の盛り上げに力を尽くす日々だ。

 丹波地域の不動産業者などによると、利便性の高いエリアで新たに一戸建てを買うのは、ローンを組みやすい30~40代。小さな子どもがいる家庭が大半という。田舎暮らしの希望者は、より自然豊かな地域を好む傾向にある。市街地の住宅需要を支えているのは、男性のような古里と利便性の両方を重視する地元出身者だ。

 男性宅の周りには同世代の家族が多い。中には小中学校の同級生たちも。母校の小学校は既に廃校になったが、男性は「今度はこの場所で、私たちの子ども同士が同級生になるかも」と語る。

■コミュニティーの維持に腐心

 「あれよあれよという間に家が建った。誰がどこに住んでいるか把握しきれない」

 丹波市氷上町の民生委員(69)は戸惑いを隠せない。各家庭を訪問し、行政などの支援につなぐ役目だが、新しいマンションには表札もない。

 過去5年余りの任期中には、独居高齢者が死後数日たって見つかったケースもあった。まだ家が少なく、隣近所が毎日のように顔を合わせていた頃には、考えられなかったことだ。「にぎわいはうれしいけれど、町の将来像が見えない気がして…」

 過疎化が進む地方では、人口集中に伴う課題は注目されにくい。ある自治体幹部は「どうしても過疎地に目が行くのは事実」と明かす。そんな中、解決に向け住民自らが動き出した地域もある。

 この27年間で新たに約400世帯、約660人の住民が加わった同市柏原町南多田地区では、自治会が広報誌で転入者を紹介したり、新旧住民の意見交換会を開いたりしている。「もともとこの地区に住んでいた人は3割」。自治会総代の亀井剛さん(71)は、つながりづくりに心を砕く。

 市内で1人が死亡、4人が重軽傷を負った14年8月の丹波豪雨では大きな被害はなかったが、1999年の大雨では柏原川が決壊し多くの建物が浸水した。

 亀井さんは「誰がどこに住んでいるか分からず、逃げ遅れを見落とす事態は避けないといけない」と強調する。7月には防災訓練を行い、要支援者の所在の確認や住民同士の顔つなぎを図る。

 「まず自分たちでできることをしないと」

■隣の丹波篠山市でも

 丹波市のお隣。しし鍋や黒大豆で有名な丹波篠山市でも、似たような現象が起きている。人口約4万人の同市の中で、味間小学校区は、平成の30年間で人口が4千人増えた。市内全19小学校区(廃校含む)のうち、この10年間で唯一、右肩上がりが続く。

 同校区内にはJR篠山口駅、舞鶴若狭自動車道丹南篠山口インターチェンジがあり、京阪神へのアクセスは良好。スーパーや商業施設なども点在し、周辺では宅地開発が進む。地価も上昇までにはいかないまでも、下落が続く他の地点をよそに安定している。

 同市西吹にある「味間認定こども園」の園舎には、明るい笑い声や元気な泣き声が絶えない。「ここで働いていると少子高齢化の話は現実味がない。まるで都会のこども園みたい」

 勤務する保育教諭は苦笑する。同園には0~5歳児計321人が通い、教職員72人が働く。近年はほぼ定員いっぱいの園児を受け入れ続けている。

 同園があるのは、JR篠山口駅周辺の「味間小学校区」。市の統計によると、全人口の約24%が同校区の住人で、0~5歳児(計527人)に限れば3人に1人の割合になる(22年4月時点)。

 同校区で新しい住宅を購入するのは、主に30代。自身も同校区で暮らす不動産店店長の男性は「丹波地域ののどかな場所から転居してくる人が目立つ。阪神間で勤めるには、篠山口駅付近が便利なんでしょう。高齢者や都市部からの人は一部という印象」と話す。

 待機児童も生まれている。同市によると、19年に初めて確認され、昨年は11人、今年は4人だった。丹波市では今のところ確認されていないが「いつ出てもおかしくない状況」(丹波市の担当者)という。

■拡大する市街地、駅前は空洞化

 「まちの玄関口がこのままで良い訳がない。いつか特急も止まらなくなるのでは…」

 味間地区まちづくり協議会長の溝端義男さん(73)は危機感を募らす。丹波篠山市内で唯一、人口が増えている「味間小学校区」。同校区内には、丹波地域の玄関口であるJR篠山口駅があるが、駅周辺には売店も喫茶店もなく、老朽建築物と無人駐車場、駐輪場ばかりが目立つ。

 特に駅東に隣接する「弁天自治会」は深刻だ。市の人口統計によると、22の自治会で構成される同校区の人口は9479人(2022年4月時点)で、34年前より倍増した。大半の自治会が増加か横ばいの中、弁天自治会は半減し、200人に。これほど劇的に減った自治会はない。

 駅そばで県道が通る一等地なのに、壁が剥がれ、屋根が崩れ落ちた家もある。「ここは空き家。隣も、その隣も。あそこは高齢者の1人暮らし」と溝端さん。看板を掲げた多くの商店も既に廃業している。

 「古い建物は相続を繰り返して権利関係が複雑になっている」。同市の景観条例で12メートルの高さ制限があり、加えて建築基準法に適合しない建物もある。「これでは民間業者も手を出しますかいな」

 増え続ける人口を受け入れるため、同校区内の開発は駅前を避けて進んだ。弁天自治会から橋を一つ越えた隣の杉自治会には、子育て世帯向けの新しい一戸建てが建ち並ぶ。

 地元自治会やまちづくり協議会は19年、駅前の居住実態などを調査。今年4月には「JR篠山口駅周辺まちづくり会議」が設立され、市や市観光協会、JR西日本などと今後2年をかけて課題を洗い出し、活性化策を話し合う。

    ◇    ◇

 丹波地域全体に目を向けると、地盤沈下が止まらない。丹波篠山、丹波両市の高齢化率は36%を超え、全国や県の平均(いずれも約29%)より高い水準にある。加えて、県の予想では、2050年の2市合計人口は現在の10万人から6万人に減るとされる。

 局所的に活気づく「氷上と柏原の一部」と「味間」。人口の集中は、さらなる飲食店や商店の誘致を促す可能性がある。その裏で、かつて経験したことのない課題が顕在化している。小さな自治体で起きている一極集中の行く末は見えてこない。

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