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弟子の都成竜馬七段から花束を受ける谷川浩司17世永世名人=9日午後、東京都渋谷区、将棋会館
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弟子の都成竜馬七段から花束を受ける谷川浩司17世永世名人=9日午後、東京都渋谷区、将棋会館

 9日に行われた永世名人推戴(すいたい)状授与式での谷川浩司17世名人(60)=神戸市=の謝辞と、記者会見でのやりとりは次の通り。

(冒頭あいさつ)

 現役のまま永世名人を名乗ることに対する戸惑いはあったが、60歳の節目ということもあり、ありがたくお受けした。名人在位は5期だが、名人戦7番勝負で敗退した経験が6回あり、負け越しで永世名人になった。誇れる成績ではないが、挑戦し続けた結果だと思っている。今後、対局はもちろんだが将棋界の発展、将棋会館建設に向けて今まで以上に全力を尽くしたい。

 -推戴状を受け取った率直な心境は

 歴代の実力制永世名人3人(故木村義雄14世名人、故大山康晴15世名人、中原誠16世名人)と比較すると実績で及ばないのは分かっているが、私自身、今後もできる限りのことをするしかないと思っている。400年以上続く将棋の歴史の中で、令和になってからは将棋が変革し、面白い時代になってきている。現役棋士として若手棋士と勝負をしながら、盤上での対話を少しでも楽しめるように精進したい。

 -藤井聡太五冠への思いは

 今の藤井さんと40年近く前の私とでは実績も実力も大きく異なる。私自身も20歳になる直前にA級に上がったが、まったくタイトル挑戦も優勝もなく、私がどれだけ活躍できるのかは疑問符がつけられていた。リーグ戦が始まり、3局目で中原16世名人に勝ってから周囲の見方も変わったと思っている。

 19歳の藤井さんはすでにタイトルを五つ(竜王・王位・叡王・王将・棋聖)持っているので、当時の私と年齢は近いが、実力、実績とも藤井さんのほうが圧倒的。今期のA級順位戦は、じっくり見守りたい

 -ふるさと神戸への思いは

 名人になったころ、東京に出たほうがいいような気持ちもあったが、神戸や関西から文化や芸術を発信できる気持ちもあった。阪神・淡路大震災を経験したことでいっそう神戸への愛着が増し、神戸に住み続けることで復興の手助けをしたい気持ちになった。これからも神戸を本拠地にしていくと思う。

 -対局中の姿勢や所作の美しさにも定評がある

 将棋は勝負の世界でもあるし、伝統文化の世界でもある。将棋ファンに長く将棋を見ていただく中で、特に子どもたちには、対局が始まるときの作法や、対局が終わったときの「負けました」「ありがとうございました」と告げる所作から学んでほしい、成長してほしい気持ちがある。

 羽生善治九段をはじめ、強い棋士ほど「負けました」という言葉をはっきりと発する印象がある。「負けるというのは悔しいことであっても恥ずかしいことではない」と考えているので、私自身も「負けました」という言葉が言えなくなったり、負けたときに悔しい気持ちが失われたりしたら、そろそろ考えなければいけない。

 -今期のA級順位戦は名古屋でも対局が行われる

 このところ、順位戦に限らずタイトル戦でも全国各地から誘致いただけるのはありがたいこと。さまざまな場所で対局が行われることによって、その地域の人に将棋に関心を持っていただけるのはありがたい。

-棋士には「勝負師」「研究者」「芸術家」の三つの顔が必要だと主張してきた。AI(人工知能)が発達する中、AIによって将棋から芸術性が失われる危惧を感じているか。

 棋士には三つの顔が必要だと20年ほど前に話したが、その後、将棋も私も大きく変わっている。研究にも「将棋の真理を追究する研究」と「次の対局で有利に進めるための研究」がある。

 今後、芸術家の部分を目指すのは序盤などでは難しくなると思うが、特にトップ棋士の対局では、形勢が苦しい側が中終盤で決め手を与えずに踏ん張り、難解な中終盤が延々と続くことが増え、それによって名局が生まれることも増えるだろう。芸術家の部分は、中終盤でこれからの棋士に見せてもらえるのではないかと期待している。

 -「清流無間断」と揮毫(きごう)した

 海洋冒険家の堀江謙一さんが無事に戻ってきたことや、指揮者の小林研一郎さんが、いずれも80歳を超えて新しいこと、難しいことにチャレンジ続けていることに影響を受けた。「清流に間断なし」というのは禅の言葉と聞いている。清らかな水は絶え間なく流れ続ける。将棋の世界でも一つの位置にとどまったり満足したりせず、常に新しいことにチャレンジしていきたい意味にとらえている。まだまだこの年代でできることを模索し続けていきたい。

 -現役棋士としての目標は

 数字でいうと勝ち星になる(6月9日現在1364勝903敗)。次の目標は1400勝や、大山15世名人が残した1433勝。1500勝は相当遠い数字だが、大きな目標としては掲げたい。勝ち越し数も意識しており、最も多かった時期は500以上あった。あまり減らさないようにと思っている。

 私の立場は何局か勝ち上がらないとトップの棋士と対局できないが、勝ち上がることでトップ棋士と対局でき、一つのモチベーションになっている。その際に最先端の考え方をまったく理解できていないのでは盤上での対話ができないので、きちんとした準備をして臨みたい。

-プロ入りから46年、間断なく将棋を続けられた原動力は

 将棋の奧の深さ、懐の深さではないか。弱いころのほうが将棋を分かったつもりになっていたが、強くなればなるほど奧の深さがぼんやりと感じられるようになってきた。そこへきて、この5年間で過去の常識がまったく通用しなくなったので、私たちベテランの棋士は一からやり直さなければいけない状況。このような変革の時代に現役でいられることを幸せだと思って取り組んでいきたい。

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