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家裁調査官は少年との面接を前に、警察から届く膨大な捜査資料を読み込む
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家裁調査官は少年との面接を前に、警察から届く膨大な捜査資料を読み込む
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家裁調査官は少年との面接を前に、警察から届く膨大な捜査資料を読み込む

 今年4月、改正少年法が施行された。18、19歳は新たに特定少年と区分されて「厳罰化」されたが、若者の立ち直りを重視し、20歳未満の事件を全て家庭裁判所に送る仕組みは維持された。その家裁で少年少女と面接し、生い立ちや家庭環境といった非行の背景を探るのが家裁調査官だ。調査で彼らが出会う「ありふれたち非行少年たち」の姿とは…。

 「親にこんなことするなんて信じられない」。高校生ユウヤの母親は、ベテランの40代女性調査官ハシバにまくし立てた。ハシバは、母親の言い分をうのみにしないよう注意していた。

 ユウヤは冷めた料理を母親の体にかけたという暴行容疑で警察の調べを受け、家裁の調査に回ってきた。事前に、警察の捜査記録を読んだ。暴行に直接関係がないはずなのに、調書は母親のアルコールの問題に触れてあった。ハシバは「担当した刑事からのメッセージ」と理解していた。

 調査を進めると、母親は酒に酔う度に息子に絡むことが分かった。幼い頃から転居を繰り返し、父母は不仲だった。母への暴行は、ユウヤの長年のいらだちが爆発した結果だった。

 ユウヤにはほかに問題行動は見当たらず、暴行の内容は軽かった。調査官は再非行の恐れは低いとする報告書をまとめた。家裁の裁判官は、少年審判を開かない「審判不開始」を決定した。大人の刑事事件なら不起訴に当たる。家裁調査官の教育的な働きかけなどで十分という判断だった。

 ハシバは「もし親のアルコールの問題で困ったら」と支援窓口の存在をユウヤに伝えた。調査が終われば自分はユウヤに関われない。家庭の外に助けを求めるすべを知ってほしかった。

 家庭内暴力のうち、子どもが加害者になる事件の認知件数が増えている。警察庁の統計によると、2020年は全国で4177件。増え始めた10年の2・8倍以上だった。ユウヤのように家庭の問題が明らかで、かつ親にその認識がないケースは珍しくない。

 たいていの調査官は、虐待や育児放棄を経験した非行少年の親から「虐待ではなくてしつけ」「私もそうやって育った」という言葉を聞く。親もかつては被害者だったのかもしれない。

 被害者だった子どもは、体が成長すると加害者側に転じる。ある家庭では、母親の厳しいせっかんを受けていた息子が中学生になると反撃し、やがて暴力で家庭を支配した。親の通報で警察に逮捕されると、「なぜ自分だけ」と漏らした。

 非行をきっかけに、あらわになる家庭の問題。ハシバの目には、加害者の少年や少女が時に「親に振り回されてきた子ども」に映る。

 暴力にさらされてきた子どもにとって、暴力抜きに他者と関係を結ぶことは、世間が思うほど簡単ではない。それでも、とハシバは思う。「負の連鎖を断ち切ってほしい」。暗闇から抜け出せる日はきっとくる。

=文中仮名=

(那谷享平)

【家庭裁判所調査官】少年事件で、当事者の少年を調査する国家公務員。裁判官が少年審判で適切な少年の処遇を決定できるように、心理学や教育学などの知識も生かして非行の背景を調べる。捜査機関の捜査とは異なり、調査は本人や保護者の面接や関係先への情報収集などで、審判も少年の保護と更生を目的とする。離婚や親権争いなど家事事件の調査も担当する。

家裁調査官成人未満
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