世界を舞台に競技人生を歩む高校２年生が、兵庫県相生市にいる。上郡高に通う横田宏太郎さん（１６）＝同市。校内ではバドミントン部員だが、帰宅後は自転車を自在に操り、障害物コースに挑む競技「トライアル」の世界王者としての顔を持つ。中学２年で海外のライバルを抑えて頂点に立ち、国内では７連覇中。１１月の世界大会で再び頂点を目指し、将来は「プロの草分け」となる自身の姿を思い描く。両親が手作りした練習場所で、若きチャンピオンは家族とともに夢をたぐり寄せようと、日々腕を磨いている。（地道優樹）

　７月下旬、横田さんは自宅近くの私設練習場で一人黙々と、練習を重ねていた。「全日本トライアル選手権」（１６～１８歳の部）で優勝したばかりだが、慢心はない。前輪を高々と上げ、バランスを取りながら、高さ１・７メートルの岩や細い丸太、ドラム缶など、両親が用意した障害物を次々に突破していく。

　「トライアル」はサドルのない小型自転車に乗り、障害物を慎重に、時に大胆に乗り越えていく競技。足が着いたり、転倒したりすると減点される。転倒によるけがなど、危険と隣り合わせだが、横田さんは「怖さを超える達成感がある。難しい障害物ほど燃える」と語る。

　トライアルと出合ったのは４歳の時。父知宏さん（４７）が若い頃にオートバイトライアルをしていた影響で、３歳上の姉華奈さん（１９）と一緒に自転車に乗り始めた。河川敷の小さな岩で練習を重ね「できるようになるまで帰らへん」と熱中した。両親は自宅近くに手作りの練習場所を設け、２人の背中を押した。

　１２歳と９歳になったきょうだいは２０１５年の全日本選手権に出場、それぞれの年代で優勝を果たした。翌１６年、ドイツで開かれた若年層の世界大会「ワールドユースゲーム」に参戦。欧州各国のトップ選手たちが集まった舞台で、華奈さんは女子１２～１５歳の部で銀メダル、横田さんは男子９～１０歳の部で銅メダルに輝いた。

　「世界一になりたい」。１８年イタリア大会に臨んだが、横田さんは３位、華奈さんは２位となり、惜しくも目標には届かなかった。雪辱を期した翌１９年のポーランド大会。華奈さんは一足早くユースを卒業し、横田さんが単身、頂点に挑んだ。

　１３～１４歳の部ながら、ライバルたちは身長１８０センチ近い選手がずらり。当時１５４センチの横田さんは持ち前のバネを生かし、体格差をはねのけた。多くの選手がタイヤを滑らせた難所の岩場も苦にせず、初優勝。「体格差がある分、誰よりも技術を磨いてきた」。家族手作りの練習場で培った自信が、大舞台での緊張や恐怖心を解きほぐし「無心になれた」という。

　高校に進学し、バドミントン部で足腰を鍛えつつ、帰宅後や休日はハンドルを握る。視線の先にあるのは、世界大会「ワールドチャンピオンシップ」。男子は１６歳から出場でき、今年１１月、アラブ首長国連邦の首都アブダビで開幕する。

　前回ユースゲームの優勝から約３年、横田さんの身長は１７０センチとなり、跳躍力が大幅に上がったという。まだまだ海外選手との体格差はあるが「僕の一番の武器は度胸。挑戦を全力で楽しみたい」。再び世界の頂点を見据える。

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■魅力伝える活動にも意欲

　日本自転車トライアル協会（長野県）によると、自転車のトライアル競技が生まれたのは１９７０年代という。スペインで子どもがオートバイトライアルを自転車でまねたのが発祥とされる。認知度の向上や競技人口の増加はこれからだが、その分「伸びしろ」は大きく、横田さんは「プロの草分けになりたい」と夢を語る。

　東京五輪の自転車競技では、マウンテンバイク（クロスカントリー）やロードレースなど、着順・タイムを競う種目に加えて、自転車ＢＭＸの新種目フリースタイル・パークが初採用されるなど、ショーの要素も含む「アクションスポーツ」への関心が高まった。

　横田さんは「トライアルもジャンプをしたり、高い所でバランスを取ったり、魅せる要素は多い。高校を卒業したら、競技の魅力を伝える活動にも取り組む」と話している。