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発想力、終盤力、それとも…藤井五冠、強さの秘密は? 叡王戦3連敗の出口六段が語る

2022/07/13 11:00

 将棋の出口若武(わかむ)六段(26)=兵庫県明石市出身=が、初の八大タイトル獲得を目指して藤井聡太叡王(19)=竜王・王位・王将・棋聖との五冠=に挑んだ第7期叡王戦5番勝負は、藤井五冠の3連勝によって幕を閉じた。盤を挟んで連戦したからこそ分かった藤井五冠の強さと、全力を尽くしたからこそ感じ取った手応えを、出口六段に聞いた。(井原尚基)

 今期叡王戦5番勝負は4月28日、東京都で開幕した。プロ入り4年目の出口六段にとって最も注目された対局。「ほとんど眠れなかった」状態で迎えた大一番は「緊張もあり、硬くなってしまった。先の手が見えなくなったのは致命的だった」と振り返る敗北を喫した。

 名古屋市で5月15日に行われた第2局は、午後、同一局面が4回続き無勝負となる千日手に。同日行われた指し直し局は、自陣に歩を打たれる筋を見落とすなど「駄目な内容になってしまった」と語る連敗になった。

 「後がない」と臨んだ第3局は同24日、千葉県柏市のホテルで行われた。「一番よく眠れた」という状態で臨んだ対局は、第2局の千日手局、指し直し局を含めた4局連続で、互いの飛車先を付く「相掛かり」の戦型に。出口六段は終盤に優勢を築き、一時は勝利を確信したが、藤井五冠が放った勝負手の飛車打ちに「1分将棋でうまく対応できなかった」と敗北し、逆転負けとなった。

 3連敗を喫した直後の大盤解説会では「ここで終わってしまうのはとても悔しい。また頑張ります」と絞り出した後、うつむいて言葉が出せず、大きな拍手を受けた出口六段。「家族やファン、師匠に申し訳なかった」と当時の心境を打ち明ける。

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 藤井五冠は、誰にも思いつかない妙手を放つ発想力や詰め将棋で鍛えた比類のない終盤力に注目が集まることが多いが、出口六段は叡王戦5番勝負を通じ、リスク(危険)とリターン(利益)をてんびんにかける力が最も印象に残ったと話す。

 人工知能(AI)が高い評価値を示す手は、人間がその後も最善手を選び続けないと一気に形勢が悪化するため、選択するのはもろ刃の剣となる場合がある。そのリスクを負わないよう、「藤井さんは、一直線に相手をつぶす将棋ではなく、相手の様子を見ながら堅実に将棋を指している印象を受けた」という。

 同様に、事前研究の幅広さにも感銘を受けたという出口六段。棋士は通常、勝負に直結しそうな場面を想定して最善手の研究を進めることが多いが「藤井さんは勝負どころから離れた局面も事前に研究していたようだ。持ち時間の使い方などを通じ、事前研究の広さの差を感じた」と出口六段は語る。

 一方で、善戦した第3局での経験から「普段通りの自分なら勝負できる」と手応えもつかんだ。再びタイトル戦に出場することを目指す出口六段は「目の前の一局に集中できなければ、その一局がぼろぼろになってしまうことが分かった」と自己分析。「一つ一つの対局に全力を尽くすことによって成長を続けたい」と誓った。

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 藤井五冠は現在「お~いお茶杯第63期王位戦」7番勝負(神戸新聞社主催、伊藤園特別協賛)で豊島将之九段(32)=兵庫県尼崎市=の挑戦を受けている最中だ。第1局を終えて豊島九段の1勝となっている。

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