全国高校野球選手権兵庫大会の決勝(7月28日・ほっともっとフィールド神戸)で、社高校(兵庫県加東市)が夏の初優勝を決めると、生中継のテレビカメラはマウンド上で喜ぶナインに続き、帽子のつばを抑えて泣き崩れる記録員を映し出した。3年生マネジャーの藤本真央さん(18)=兵庫県多可町=だ。映像はツイッターにも投稿され、「もらい泣き」「感動した」と再生を重ねた。
「4月の誕生日に『甲子園に連れて行く』と3年生にもらった手紙とか、色んなことを思い出して感情が爆発しちゃいました」
延長十四回のタイブレークまでもつれた決勝の2日後、オンライン取材で号泣した理由を教えてくれた。ただ、テレビに映っていたと知ったのは帰りのバスの中。多くの友人からスクリーンショット(画面保存)が届き、ツイッターを見ると自分の動画が流れていた。反響の大きさに驚いた。
多可町立中町中学校でソフトボール部に入り、高校でも続けることを考えたが、祖父とよくテレビのプロ野球中継を見ていた。「人を支える仕事をしてみたい」との思いもあり、マネジャーに転じた。
社高のマネジャーは各学年に2人ずついるのが一般的だが、藤本さんの代だけ1人だった。最終学年を迎え「役に立つのか」と不安に襲われたというが、山本巧監督は「あの子がいないとチームが回らない」と敏腕ぶりに信頼を寄せる。
指揮官が欲しい選手データを先回りして手渡し、急きょやることになった練習にも機敏に対応。藤本さんは「用事をしながらでも監督の声が耳に入ってくるので。この話の流れなら、この資料がいるのかなって。練習には雰囲気があって、それを先に感じて後輩に指示しています」
高い観察眼はチームの変化も捉えていた。社高は昨夏、9度目の準決勝敗退。逆転負けの結果に、後藤剣士朗主将や芝本琳平投手ら主力の経験者を中心に「『先輩の分も』とより強い気持ちになっていたし、考えて考えて野球に取り組むようになった」(藤本さん)。練習中、走攻守の細部まで話し込む姿に勝利への執念を見た。
だからこそ決勝の延長十四回2死一、二塁。後藤主将が最後のアウトをつかみ取った瞬間、涙があふれだした。
創部74年目で初めて兵庫大会を制し、藤本さんは歴代のマネジャーで最長の夏を過ごしている。「一日でも長く野球をしている姿を見てみたい」。6日開幕の甲子園でも記録員としてベンチに入る。(有島弘記)
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