ロシアの民芸品「マトリョーシカ」に平和への祈りを込めて絵付けした作品展が、神戸市中央区元町通3の古書店「花森書林」で開かれている。ウクライナへの侵攻。旧ソ連軍の記憶。ロシアに抱く思いは出品者それぞれだが、反戦平和を願う気持ちは同じ。展示会には愛らしい20作品が並ぶ。(小谷千穂)
マトリョーシカは入れ子構造になっており、人形の中に小さな人形が幾つも入っている。今回の「国境なきマトリョーシカ展」を企画したのは同市兵庫区の画家、高濱浩子さん(53)ら。ロシアで活動経験のある美術作家を招き、5月と7月に絵付け教室を開いた。
平野陽子さん(31)=同市兵庫区=は高濱さんに声をかけられて参加した。夫はロシア出身。ロシアのウクライナ侵攻に心を痛めていた。
大学在学中、モスクワに語学留学した平野さん。10年前、日本に留学していた夫と出会い、2019年に結婚した。「一度懐に入ると温かくて優しい人が多い」とロシアで出会った人々を思い浮かべる。
ウクライナ侵攻後、ロシアの友人が「自分の国が恥ずかしい」と言うのを耳にするようになった。日本でロシア食品店の看板が壊されたという話も聞いた。
「誰にもつらい思いをしてほしくない。ほっとする気持ちを届けたい」。そう考え、色とりどりのずきんをかぶり、柔らかくほほ笑む女の子を描いた。タイトルは「わたしからあなたへ」。女の子は胸にヒマワリなどを抱えている。
◇
作品展を企画した高濱さんの母、光永さん(83)=同市兵庫区=も出品している。先の大戦のつらい記憶から、長年、ロシアには否定的な感情を持っていた。
北海道出身で、戦時中、伯父やいとこらは当時日本が統治していた樺太(サハリン)南部に住んでいた。子どもの頃、海を渡って会いに行ったこともある。しかし、終戦直前の1945年8月に旧ソ連軍が侵攻。いとこの女の子2人が命を落とした。
最近、娘からマトリョーシカなどの民芸品について詳しく教えてもらい「こんなかわいい人形もあるんやな」。知らなかった文化に触れて、少しずつ考えが変化。絵付けに挑戦することにしたという。
ウクライナだけでなく、ロシアの人々の良心にも寄り添いたい。心を込めて作ったのは、宮城県の国宝瑞巌寺の僧侶を表現したマトリョーシカ。新聞広告を使い、趣味のちぎり絵で仕上げた。「戦争がどんなにひどいか身をもって体験してきた。こんなお年寄りでも何か助けになりたい」と目をうるませる。期間中にもう一つ作品を完成させようと制作を続けている。
作品展は15日まで。高濱さんは「マトリョーシカはウクライナの民芸品でもある。お互いに手を取り合える世界を願いたい」と話している。10月1~30日にも神戸市立兵庫図書館で展示される予定。
午後1~7時(最終日午後5時まで)。火・水曜休み。花森書林TEL078・333・4720
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