小学生ばかり５人が襲われ、２人が殺害された神戸連続児童殺傷事件から、２５年が経過した。

　「なぜ自分の子どもが命を奪われなくてはいけなかったのか、納得する理由が知りたい」。次男の土師淳君＝当時（１１）＝を殺された父の守さん（６６）は、今もこう語る。

■検証の限界

　事件はなぜ起きたのか。１４歳だった「少年Ａ」が逮捕された後、主に警察は「犯罪事実」を、検察が「動機など背景事情」を分担して調べた。家庭裁判所も調査し、少年審判の決定要旨を公表した。発生から１８年後には、成人したＡ自身が手記を書いた。

　それでも、Ａの動機は何だったのか。果たして解明できたのだろうか。

　神戸地検で主任検事としてＡを連日取り調べた男性（６９）＝現在は弁護士＝が当時結論づけた動機は、「祖母の死をきっかけに、死に強い関心を抱くようになった」というものだった。

　謎として残るのが「本当にこれだけでやるか」という点です。事件と祖母の死を結びつけたのが正しいのかは分かりません。彼が行動の理由を把握できていたのか、あるいは自分でも把握できない深層心理に突き動かされていたのかも分からない。「内心の情」は、客観的な状況と合致しているかどうかぐらいしか、検証しようがないんです。

　そして、大人の捜査官が理詰めで聞くわけです。彼としては「分からない、分からない」ではだめだと思い、答えなくてはいけないと考えたかもしれません。そこで答えをつくった可能性はある。うそを言ったとは思いません。ただ、本当に事件当時に立ち戻って自分の気持ちを言ったかは分かりません。

　地検は神戸家裁に事件を送る際に記者会見を開き、「祖母の死」という動機を説明した。しかし家裁の審判では、井垣康弘判事（今年２月に死去）がその見立てを事実上退け、医療少年院送致を決めた。

■特異な人間

　検察官調書を読んでも、精神鑑定をしても、普通の人間であれば納得できない、という部分があったんでしょう。私は、本当かどうかを確かめられなくても、話す内容が合理的であるなら、「んー、ありかな」と調書に残しました。（地検と家裁の）どちらの判断が正しいかは分かりません。ただ（事件の原因や動機を）精神的なものにすると、社会は納得するわけですよ。

　Ａの弁護団（付添人団）で団長を務めた野口善國弁護士（７６）は、家裁の決定内容に抗議したと話す。「精神的な治療が必要とは認めていたが、非常に特異な人間と強調されすぎて、誤解を与えると感じた」。一方で、弁護団もＡの一つ一つの犯罪行為について動機を分析するところまでは至らなかったと打ち明けた。

　調べで私にどう答えたかはもういい。それより、何年たっても事件を振り返り、自分はなんでやったのかと内省するべきだ。向き合い続けなければ。

　地検による捜査は、約３０日で期限を迎えた。主任検事は、時間がもう少しあれば、１９９７年３月に女児２人を死傷させた連続通り魔事件の後、Ａが書いた作文「懲役１３年」を調べたかったと振り返る。その題名は、人生を懲役刑になぞらえていた。（霍見真一郎）

【神戸連続児童殺傷事件】　神戸市須磨区の住宅街で１９９７年２～５月、小学生５人が次々と襲われ、２人が殺害された事件。６月に殺人容疑で逮捕された中学３年の「少年Ａ」は１４歳で、当時は刑罰の対象年齢未満だった。事件を機に、少年法の厳罰化が求められ、２００１年の法改正につながった。００年に乗客が殺傷された西鉄バスジャック事件で逮捕された少年＝当時（１７）＝は「神戸の事件に影響を受けた」と話すなど、同世代にも影響を与え、「心の闇」は時代を映すキーワードとされた。兵庫県では心の教育を見直そうと、９８年から中学２年での体験学習「トライやる・ウィーク」が始まった。犯罪被害者の支援に目が向けられる契機にもなり、０８年施行の改正少年法は、重大事件の被害者や遺族に少年審判の傍聴を認めた。

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