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太田貞夫さんが生前手がけた絵本が完成し、本を手にする妻の聖子さん(右)と母の明さん=神戸市東灘区(撮影・長嶺麻子)
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太田貞夫さんが生前手がけた絵本が完成し、本を手にする妻の聖子さん(右)と母の明さん=神戸市東灘区(撮影・長嶺麻子)
太田さんの絵本で挿絵を担当した稲田瑞穂さん=東京都千代田区、神戸新聞社東京支社
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太田さんの絵本で挿絵を担当した稲田瑞穂さん=東京都千代田区、神戸新聞社東京支社
昨年12月に急逝した太田貞夫さん
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昨年12月に急逝した太田貞夫さん

 神戸新聞記者、デスクなどとして38年間勤め、昨年12月に62歳で急逝した元神戸大特命教授の太田貞夫さんが、生前手がけた絵本「カギしっぽのフク」(文芸社)が完成した。「ばあちゃん」がもらってきた猫の「フク」と「ぼく」のふれあいを中心に、神戸のまちが壊滅的な打撃を受けた阪神・淡路大震災による心の痛みも織り込んだ。妻の聖子(まさこ)さん(60)は「夫が心を残してきた絵本を仕上げることができて、ほっとしている」と話す。(小西博美)

 太田さんは神戸生まれ神戸育ち。大阪市立大(現・大阪公立大)を卒業後、1983年に神戸新聞社に入社。社会部や阪神総局などを経て、震災発生時は社会部遊軍記者として震災報道に携わった。その後、社会部長や編集局次長、執行役員姫路支社長を務めた。

 作家志望だったという太田さん。60歳を過ぎて時間的な余裕もできたことから、母の明(あき)さん(94)がかわいがっていた猫の「フク」の話をしたためて出版社に応募。入選は逃したが、2021年3月に文芸社からの出版が決まった。

 だが、絵本の制作を進めていた昨年12月、太田さんは心臓疾患で急逝。聖子さんが同社との交渉を引き継ぎ、挿絵を担う神戸新聞社東京支社の元アルバイト稲田瑞穂さん(51)が残りの絵を描いて完成させた。

 絵本は、道端で死にかけていた猫をばあちゃんが引き取るところから始まる。珍しい三毛猫の雄で、しっぽの先は直角に曲がった「カギしっぽ」。幸運を呼び込むと「フク」と名付けられ、なくてはならない存在になった。そこへ阪神・淡路大震災が起きた1月17日が巡り、「ぼく」の両親が震災で亡くなったことが明かされる。フクは天国の父母が遣わした贈り物-というストーリーだ。

 実際のフクは12年11月から約6年を太田家で過ごした。ばあちゃんは母の明さん、ぼくは太田さん自身を投影している。

 聖子さんは「震災では、表面上は復興していても心の中に傷が残る。忘れてはいけないというメッセージを込めたのでは」。明さんは「いつまでも皆の心の中に貞夫が生きている気がする。本当に福を持ってきた猫やね」とほほ笑んだ。

    ◇

 稲田さんは、太田さんが東京支社編集部長だった08年ごろ同支社に勤務。アートスクールにも通い、いつか絵本を作りたいという夢があった。そんな会話を覚えていた太田さんが「心を込めて描いてくれそう」と依頼した。

 絵は14枚。油絵の筆洗い油で色鉛筆の色をぼかし、優しい雰囲気に仕上げた。神戸ポートタワーや観覧車がある神戸港、フクを抱き締めるばあちゃん、フクを乗せて大海原を航海する船を描いた。震災直後の神戸の様子を描いた絵もある。

 稲田さんは「完成品を見てもらえなかったのは残念だけど、見る人が癒やされて幸せな気持ちになってもらえれば」と願う。

 A5判28ページ。1100円。宝塚市逆瀬川1のキャップ書店逆瀬川店、大手通販サイトで購入できるほか、ブックサービスでは電話(0120・299625)でも注文を受け付ける。

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